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古都の旅で学ぶSDGs 観光再生の切り札にも

新型コロナウイルスの感染拡大で年間1500万人以上の観光客を失ったとされる奈良県。復活を目指す関係者が着目したのが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)だ。1300年を超える歴史を持つ奈良にはSDGsに通じる知恵が根付いている、との視点で改めて魅力を発掘。歴史や自然からSDGsを学ぶとともに、観光産業の新たな基盤づくりも目指す。

大人向けの学び旅で「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」を訪れる参加者=昨年12月、奈良県明日香村
大人向けの学び旅で「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」を訪れる参加者=昨年12月、奈良県明日香村

埋もれた魅力

奈良は6月と10月が観光のハイシーズン。中でも多いのが修学旅行で、京都府に次ぐ全国2位の年間約80万人の児童生徒が訪れる。しかし、実態は「泊まらない急ぎ旅」。多くは観光スポットを一巡して奈良を後にしており、宿泊するのは約10万人にとどまる。

「歴史的な建造物を見学して、シカと遊んで、というのが現状だ」と奈良教育大学の中沢静男准教授は嘆く。その上で「なぜ1300年もの長い時間、奈良の社寺やまちは持続しているのか、市井の人々はどのような営みを続けてきたのか、などを考えることは翻って自分の町で何をすべきか考える契機ともなる」と指摘する。

教育現場でSDGsを取り上げる例が増えていることを受け、同大と奈良商工会議所などが組んで、「奈良SDGs学び旅」と銘打って旅程を提案しサポートするため推進協議会を設立。ガイドブックを編集するとともに、講演やフィールドワークなどを盛り込んだプログラムの無料提供を昨年春に始めた。

少人数で巡る

学び旅は「東大寺」と奈良市中心部から徒歩圏にある「春日山原始林」、歴史ある町並みが残る「ならまち」の3コースを設定。実際に歩いて主体的に学び、対話を通じて考えを深められるよう少人数で行う。歴史があるだけに学習ポイントには事欠かない。

例えば東大寺コースでは当然、大仏をクローズアップ。建立されたのは天然痘の流行や地震などの災禍に見舞われた奈良時代で、困難を乗り越えようとの願いを込めて延べ約260万人が力を結集した証しと紹介する。

さらに奈良に春を告げる行事として知られる東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)にも触れる。11人の練行衆と呼ばれる僧侶が、すべての人の平和や安寧を願う行事で、先の大戦でも中断されず「不退の行法」として続けられたことを解説する。

これらはSDGsでうたう17項目の目標のうち、飢餓をゼロに▽すべての人に健康と福祉を▽住み続けられるまちづくりを▽平和と公正をすべての人に-などに当てはまるという。

春日山原始林コースでは環境問題に焦点を当てる。校外学習で学び旅のプログラムに参加した奈良県立香芝高校2年の長谷場滉典(こうすけ)さんは「気候変動(による多雨)の影響で土砂崩れが起きているなんて初めて知った。自然に触れることで、環境問題を身近に感じることができたのは貴重な体験だった」と話す。

変わる旅のかたち

これまでに11校の計約600人が参加した。事前に奈良教育大で講義を受けてもらうという手厚さで、修学旅行で「学び、遊んだ」という印象も強まると期待している。

各コースとも好評だといい、学び旅の推進協議会は令和4年度からは聖徳太子にゆかりの深い明日香村や豊かな自然が広がる吉野エリアといったコースも新たに設定する計画だ。推進協の担当者は「1300年の奈良の歴史に触れることは、次の千年を考えるきっかけになる」と意義を述べる。

学び旅のコンセプトを学校以外にも展開する考えで、親子・家族向けの「奈良公園SDGs自然学校」といった催しや、大人が楽しめる旅も企画している。

大人向けではこれまでにも、高松塚古墳やキトラ古墳などで知られる明日香村を自転車で巡るツアーを開いている。閉館後の「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」でキトラ古墳に描かれた天文図をプラネタリウムで堪能し、その後、実際の星空も観賞する。

長友恒人・奈良教育大名誉教授は「今までの観光の形は新型コロナウイルスによって壊された。今後は、グローバルな視点と地域をより深く知るローカルさを併せ持つことが、新たな旅のスタイルになる」と学び旅の可能性に期待を寄せている。

体験から価値 各地に広がる「SDGs旅」

旅に学びの要素を取り入れる動きは、各地で広がっている。中学・高校の学習指導要領改訂で、SDGsについての学習やキャリア教育が求められていることが背景にある。若い世代が旅を通じて地域に親しみを持つようになれば、将来の観光需要や定住者の増加につながるとの期待もある。

横浜市はJTBと組み「ヨコハマ探究学習プログラム」を開発し、全国に発信している。横浜を修学旅行で訪れた中高生たちが企業を訪問し、SDGsへの取り組みを聞くという試み。旅行後には学んだ内容をもとに、普段の生活で生かせることなどを考えてもらう。

自然と直接向き合い、持続可能な農業を実地で体験してもらう取り組みもある。

徳島県西部の山間地で観光開発を手掛ける一般社団法人「そらの郷」(三好市)は、農家体験プログラムを提供。農業に厳しい環境である山間部の急傾斜地で受け継がれてきた千年以上続く伝統的農法の体験を軸に「自然と共生するおじいちゃんやおばあちゃんの生活の知恵を伝える」と同法人事務局次長の出尾宏二さん(62)。参加する生徒には「昔から続く知恵を学ぶことに価値を感じてほしい」と話す。(木村郁子)


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