高齢者の不健康、交通不便…医療プロが描く「デマンド送迎」で一挙両得のシナリオ

    アソボの基盤となる新たなモビリティーサービスは、トヨタ自動車系の部品メーカー、アイシンが担う。アイシンが展開する乗合デマンド送迎サービス「チョイソコ」は2021年10月時点で26自治体で導入済み。住宅地まで停留所を張り巡らせ、住民が希望する日時や目的地に基づいて相乗りルートを設定し、さまざまなサイズの送迎車を走らせる仕組みが基本だ。さらに外出促進といった地域の事情や課題に合わせた柔軟な運営にも力を入れている。

    埼玉県入間市でアイシンが提供する乗合デマンド送迎サービス「チョイソコ」の車両の内部。車いすでの利用にも対応している=2月3日(SankeiBiz編集部)
    埼玉県入間市でアイシンが提供する乗合デマンド送迎サービス「チョイソコ」の車両の内部。車いすでの利用にも対応している=2月3日(SankeiBiz編集部)

    アソボの実証実験としてのチョイソコ導入にあたっては、小林病院が位置する宮寺・二本木地区に住む要介護度1、2の高齢者らを含む約80人を選定。電話でチョイソコを予約すれば、指定した日時に相乗りワゴン車が自宅まで迎えに来る方式を採用した。

    この仕組みが健康増進につながると期待されるのは、高齢者の外出に対するモチベーションを高める効果が見込めるからだ。健康を損なった高齢者は「買い物を楽しみたい」という気持ちがあっても、最寄りのバス停まで歩くことさえ心理的な負担となるケースがある。しかし自宅まで車で迎えに来てもらえれば、外出へのハードルはぐっと下がる。スーパーなどに到着した後は買い物したい気持ちに背中を押されて売り場を歩き回り、自然とリハビリになるというわけだ。

    千本松教授はスマートフォンを使った位置情報ゲームの「ポケモンGO」が外出のきっかけになった事例を参考にしたと明かす。「高齢者が楽しめる仕組みを作ることで、リハビリの一環になる外出へのモチベーションを高めることができると考えた」と話す。

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    ■「医療だけでなく地域全体を盛り上げる」

    2月3日午後、入間市内の大規模ショッピングセンター「イオンスタイル入間」にチョイソコのワゴン車が到着した。3人の高齢の女性がお互いを気づかい合うようにして車を降り、笑顔でショッピングカートを押しながら店内に向かっていった。

    ショッピングモールはアソボに参加する利用者の間で人気の目的地だ。入間市によると、参加者からは「家にいると歩かないが、イオンに行くと結構歩くのでいい運動になる。お昼を近所の友達と一緒に食べるのがとても楽しみ」「免許は返納したので、チョイソコは足腰の弱った高齢者にはとてもありがたい」といった声が聞かれるという。今後はイチゴ狩りなど、高齢者が外出したいと思えるようなイベントも企画する予定だ。

    入間市でのチョイソコの運行は昨年12月15日から始まり、今年2月末まで続けられる。アイシンによると、1月末までの集計でのべ176人が利用したという。

    アソボではチョイソコの活用によって高齢者の身体機能が実際に改善したかどうかも確認する。昨年11月から今年2月にかけて、参加者の筋力や歩行速度、体脂肪率などを測定し、効果を判定。さらに「健康になったと感じるか」などと尋ねるアンケート調査も行い、外出と主観的健康感との関係についても調べるという。

    小林院長は「医療だけでなく地域全体を盛り上げていきたい。今後、宮寺・二本木地区から市内全体に広がっていくよう、今回の取り組みを一生懸命育てていきたい」と話している。


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