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高齢者の不健康、交通不便…医療プロが描く「デマンド送迎」で一挙両得のシナリオ

交通の不便さと高齢者の健康不安という2つの異なる問題を新たなモビリティーサービスで解決するー。こんな一挙両得を狙った取り組みが埼玉県南部の入間市で行われている。入間市は都心へのアクセスが良好なベッドタウンではあるが、市内の中心部は鉄道路線の空白地帯。一方、高齢化問題という全国共通の悩みもあり、健康への自信を失った高齢者が外出を敬遠し、ますます体力を落とす懸念にも直面している。こうした問題を解決しようと立ち上がったのは、地域に根差した医療のプロフェッショナルの2人。昨年12月からトヨタ自動車系企業が展開するデマンド相乗りサービスを活用して、移動しやすい環境づくりが高齢者の外出意欲に与える影響を検証する実証実験を進めている。

埼玉県入間市内で行われている乗合デマンド送迎サービス「チョイソコ」を用いた実証実験の様子=2月3日(SankeiBiz編集部)
埼玉県入間市内で行われている乗合デマンド送迎サービス「チョイソコ」を用いた実証実験の様子=2月3日(SankeiBiz編集部)

■市の中心部に鉄道空白地帯

入間市は東京・池袋から電車で30~40分ほどの場所にあり、人口約14万6000人を擁する。住宅地の開発も行われ、いわゆる「過疎化」のイメージからは遠い地方都市だが、やはり交通問題は潜んでいる。

「最寄り駅まで歩くと24分ぐらい。自転車を使う人も多いですが、坂道が多くて大変なので、近くのバス停が重宝されています」。市東部の住宅地でモデルハウスに勤務している男性は地元の交通事情をこう説明する。

池袋にアクセスできる西武池袋線の入間市内の駅は、狭山市や飯能市との境界に近い北東部に偏在。市の中央には鉄道の空白地帯が広がる。空白地帯には西武バスの路線も通ってはいるものの、多くをカバーする役割は9つのコースが設定された市営のコミュニティバスやワゴン車が担う。ただ、各コースの便数は多くても1時間に1本程度。車を運転できなければ、日々の買い物にも事欠く住民も多い。

「このあたりは90歳で車を運転している人もいる。運転時の反応も遅くなっているだろうが、交通手段が過疎化しているので、車がなければ行きたいところに行けない」

入間市南部で地域医療を担う小林病院の小林良樹院長は患者や住民が抱える悩みをこう代弁する。

小林病院は1928年から住民に医療を提供してきた歴史があり、内科を中心に循環器内科、糖尿病内科、整形外科など幅広い疾患をケアしている。コミュニティーワゴン車が走らない時間帯には、歩けば1時間ほどかかる「最寄り駅」の武蔵藤沢駅まで送迎バスを往復させる地域密着型の医療機関だ。ただ、眼科がないため、通院する患者からは別の病院にも通えるバス路線が必要だといった声も出ているという。

■リハビリに及び腰な高齢者

一方、入間市は交通網以外にも悩みがある。高齢者の健康増進という全国共通の課題だ。入間市の場合、総人口に占める65歳以上人口の割合は3割。このうち16.5%にあたる約7200人が介護が必要な状態だと認定されている。

「病気になった患者さんは回復期に入ればリハビリが必要になる。高齢であればなおさら体を動かさないと心臓も脳も機能が落ちる。しかし積極的にリハビリに参加してくれる患者さんは少数です」。埼玉医科大学の千本松孝明教授は高齢者医療の難しさを打ち明ける。

高齢者にリハビリに取り組んでもらうには「自分は健康だ」と思う主観的な健康感が重要だ。本来であれば健康に自信がない高齢者ほどリハビリに取り組む必要性が高いが、実際には、病気などで健康への自信を失えばリハビリを行う意欲も薄れるという。

リハビリにはデイケアセンターなどの室内で行う手法だけでなく、普段の生活の中でのウォーキングなどでも効果は期待できる。千本松教授は「リハビリに及び腰な高齢者に外出しようと思う気持ちを持ってもらわねばならない」と指摘する。

■ポケモンGOがヒント

不十分な交通網と高齢者の健康増進。この異なる2つの課題に同時に挑むプロジェクトとして立ち上がったのが、新たなモビリティサービスとリハビリを組み合わせ、社会生活の中でのリハビリ実践を目指す共同研究「ASOVO(アソボ)」だ。旗振り役を務めるのは小林院長と千本松教授。2人は2020年12月9日、杉島理一郎市長と面会し、「入間市を助けて欲しい」と協力を要請した。約3週間前に37歳の若さで市長に就任したばかりだった杉島市長は「ぜひ、一緒にやらせてほしい」と応じたという。


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