日本は世界一の超高齢者大国である。1990年代はまだドイツ、イタリア、フランスなどの欧州諸国との差がなかったものの、2000年以降は一気に日本での高齢化が加速した。いまでは75歳以上の高齢者は人口の16%に達している。
同調するように、車椅子、もしくは杖を使う高齢者も急増。全人口の4%が何らかの歩行補助器を必要としている。高齢化により今後も増えると予想される。
となれば欠かせないのは、高齢者、あるいは身体に障害を持つ人たちのための福祉車両であろう。幸い日本には、小型から大型まで、福祉車両に改装しやすいミニバンが多い。例えばホンダの「フリード」や「ステップワゴン」、トヨタの「シエンタ」や「ノア」など、すでに福祉車両として販売しているモデルは少なくない。福祉車両という呼び名に抵抗感があるとして、トヨタでは「Welfare」(福祉)「Well」(健康)「Welcome」(温かく迎える)と「Cabin」(客室)を合わせた造語として「ウェルキャブ」という名称を採用。日本はそんな“ウェルキャブ先進国”になりつつあるのだ。
細部に行き届いた“気遣い”性能
デビューしたばかりのトヨタの新型ノア、ヴォクシーにも新機能付のウェルキャブが設定されている。自立歩行できる人用に開発された「サイドリフトチルトアップシート」は、2列目左側に組み込むものだ。シート全体が電動で動く。緩やかなリクライニングだけではなく、開けたドアから外に迫り出すタイプである。
新型の特徴は、乗降スペースを従来の110ミリから55ミリに短縮したことだ。張り出しがわずかだから駐車スペースが狭くても使いやすい。しかも、迫り出したのちにやや前傾にチルト(傾く)。シートをそっと傾けることで、すくっと立ちやすい。「よっこいしょ」と力を入れる必要がない。足腰が弱い高齢者には都合が良いのだ。
例えばスカートの裾が気になる女性や、足の可動域が規制されている和服にも便利だろう。病院やクリニックだけではなく、冠婚での利用も想定できる。トヨタではその手の需要にも期待しているのである。
さらに障害が進んだ車椅子利用者にも目が向けられている。ノアの新型ウェルキャブは、リアゲートからスロープが張り出し、背後から車椅子ごと乗り入れるタイプ。電動モーターによる引き上げや車高の調整、あるいは車椅子の固定といった煩雑な操作をわずかなスイッチ操作で可能とした。
車椅子で乗り込みやすくするために、あるいは背後からサポートしやすくするために、リアの車高が下がる。それすらもバックドアの開閉に連動している。今後、老老介護のケースも少なくないことを考えると操作性は重要な課題の一つなのだ。