アメリカが宇宙軍を創設したのは、宇宙空間には国境がなく、うかうかしていると外国が領土上空を制圧し、いつでも攻撃できるような態勢をとることも可能なためだ。また、宇宙にはレアアースをはじめとする、さまざまな資源が眠っていると考えられている。地球内では枯渇の危機に瀕しているものでも、入手可能ではないかと予測されており、今後ますます宇宙ビジネスの期待は膨らんでいくだろう。
日本のモノづくりにとって忘れてはならぬ金言
実際に欧米では、スペースXをはじめとする民間の宇宙開発ベンチャーが次々と誕生して確実に成果を上げ、それらの企業への投資熱も高まっているのだ。
にもかかわらず、日本にとって宇宙は未だに「夢の空間」であり、宇宙へ投資するのは「無駄遣い」という考えが根強い。
その結果、世界から熱い注目を浴びていたISASの優位性も揺らぎ始めている。
既に、日本がモノづくり大国だと思っている人は少ないだろう。さまざまな分野で欧米だけではなく中国や台湾、韓国に抜かれてしまっている。これは、予算の出し惜しみによって大胆な研究が行えなくなっているのが大きな要因だ。
それでも、今なお、世界をリードしている分野が残っている。その一つが、固体燃料ロケットと無人探査機を中心とした宇宙開発技術なのだ。
遅まきながら、日本でも民間の宇宙ベンチャーが続々と誕生している。しかし、欧米とは比べものにならない。
そういう意味では、ISASにはもっともっと頑張ってもらわなければならない。
「でも、予算があまりにも少なくて」という嘆きの声が、聞こえてくる。
JAXA全体でも1800億円しかなく、ISASの費用は、その1割程度しかないからだ。
しかし、この「予算がないから、新しい発明が生まれず、成果も上がらない」というのは、単なる泣き言ではないだろうか。
日本で、研究開発費が潤沢にあった例は、過去にもない。
逆に言えば、「カネがないなら知恵を絞れ!」こそが、日本のお家芸なのだ。
なのに、最近の経営者も研究開発の責任者も、カネの話ばかりをする。
カネは、成果が上がれば、勝手に流れ込んでくる。ごちゃごちゃ言わずに、結果を出せ! そんな気概は、どこに行ってしまったのか!!
こんなことをつらつら考えながら、ISAS内を歩いていると、かつて『売国』の取材に多大なサポートをしてくださった宇宙開発の重鎮、的川泰宣氏の言葉が甦ってきた。
「宇宙研が、何度も不可能を実現できたのは、『ほどよき貧乏を生かしたから』」
資金がゼロなら何もできない。でも、限られた資金はあったから、あとは知恵を絞って成果を上げた。
これは、宇宙開発だけではない。停滞を続ける日本のモノづくりにとっても、忘れてはならない金言ではないだろうか。