経済安保法案、企業は制約や負担増懸念

    経済安全保障推進法案が25日に閣議決定された。米中対立などを背景に、企業も経済安保を重視するようになっており、法制化に反対する声は聞かれない。もっとも、通信などの基幹インフラを担う企業を中心に、企業活動への過度な制約や手続きなどの負担増を懸念する声も相次ぐ。企業が経済活動と経済安保を両立できるよう、政府には丁寧な説明が求められる。

    無料通信アプリの「LINE」
    無料通信アプリの「LINE」

    経済安保法案では、4本柱の1つとしてサプライチェーン(供給網)の強靱化や特許の非公開化などとともに基幹インフラの安全性確保を据えた。金融や郵便など14業種を対象に指定した上で、重要設備の導入や維持管理の委託を行う際に国がサイバー攻撃のリスクを事前審査するものだ。

    通信も対象業種の一つ。業界では昨年3月、約9千万人の利用者を抱える無料通信アプリ「LINE(ライン)」で個人情報管理の不備が発覚、国外への情報流出懸念が高まった。LINEの親会社であるZホールディングス(HD)が設けた特別委員会の最終報告書は、中国の関連会社が個人情報を閲覧し、韓国のサーバーに保管していた点を「経済安全保障への配慮ができず、見直す体制がなかった」と批判した。

    LINEが事前審査の対象に含まれるかは明らかでないが、その後の同社はデータの国内管理に力を入れており、新法についても「適切に対応していく」と説明する。

    法制化への関心はエネルギー業界でも高い。電力大手でつくる電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は、国の関与で業界の信頼が高まれば「意義のあることだ」と評価する一方、国の審査に対して届け出る内容が明らかになっていないことから、「現実的に可能な仕組みにしてもらいたい」と対応を求める。

    鉄道会社や航空会社などの運輸インフラを担う各社は、設備導入や維持管理に細心の注意を払ってきた。しかし現行制度では国のチェック機能が存在せず、システムの脆弱(ぜいじゃく)性に関する情報が漏れ出る懸念が指摘されていた。

    法案では外部企業が関わる場合、国内外の別なく事前の届け出を義務付けるとしており、一定の効果が見込めそうだ。半面、対象設備の範囲が広すぎて企業側が対処しきれない恐れもあり、航空会社関係者は「負担に留意した制度を期待したい」と語る。

    審査の負担については、携帯大手の関係者も「手続きが煩雑になると第5世代(5G)移動通信システムのエリア展開が遅れる」と影響を危惧する。

    政府もそうした声を踏まえて、当初は事前審査の対象を大企業に絞る方針だ。効果を見極めながら、段階的に対象を広げていくことになりそうだ。(井田通人、森田晶宏、福田涼太郎、高木克聡)


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