内燃機関の走りとBEVの魅力を両立
走りの性能も優れている。バッテリーを低く薄く床下に搭載することで、驚くほどの低重心化が図られている。質量のかさむエンジンを搭載しないため、前後重量配分も理想的になった。それがフットワークに貢献。グラグラと傾くことなく、フラットな姿勢でコーナリングする。
ただし、基本がSUVだから、峠道を軽快に走ることが主眼ではない。というよりもむしろ、良い意味で「BEVらしさ」を抑えている。電気モーターの加速は当然のことに力強いのだが、スタートダッシュの加速感を敢えてマイルドに設定することで、むしろBEVの欠点であった車速の伸びを改善している。ドンと加速して一気に萎む、といった特性ではなく、内燃機関がそうであったように、速度が高くなっても伸びが衰えないフィーリングには好感が持てる。
それでいてBEVのメリットに磨きをかけている。RAV4に比較して160ミリも伸ばされたホイールベースにより、車内は広々としている。静粛性が際立っていることは言うまでもない。回生ブレーキ量をコントロールすることで、好みのワンペダル感が得られる。これまで慣れ親しんだ内燃機関から乗り換えても違和感のないように開発されていながら、BEVの魅力を享受できるのである。
トヨタは世界初の量産ハイブリッドをデビューさせたメーカーだというのに、カーボンニュートラルに背を向けると誤解されてきた。だがその誤解を払拭させるに十分な内容が詰まっている。おそらくbZ4Xは人気モデルに上り詰めるに違いない。そして同時に、カーボンニュートラルに積極的なメーカーだとの称号を得ることになるのだろう。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。