韓国大統領選まで1週間 安保が争点に急浮上

    【ソウル=桜井紀雄】9日の投開票まで1週間に迫った韓国大統領選で、ロシアのウクライナ侵攻を受け、朝鮮半島の安全保障問題が争点に急浮上した。有事に日本の自衛隊と協力するかという課題も突きつけられ、主要候補の対日観の隔たりも改めて浮き彫りになった。文在寅(ムン・ジェイン)政権で揺らいだ日本との安保協力の方向を決める韓国の新リーダーが間もなく選ばれる。

    「戦争は政治家が決め、死ぬのは若者だ」。革新系与党「共に民主党」の大統領候補の李在明(イ・ジェミョン)前京畿道(キョンギド)知事は2月25日のテレビ討論会でこう指摘した。

    北朝鮮による相次ぐミサイル発射を受け、対北先制攻撃の検討などに言及してきた保守系最大野党「国民の力」候補の尹錫悦(ユン・ソンヨル)前検事総長が大統領になれば、戦争となり、若者が犠牲になると印象づける狙いだ。

    尹氏は「確実な抑止力を持ってこそ平和が維持される」と述べ、先制攻撃能力の必要性を強調。尹氏が主張する高高度防衛ミサイル「THAAD(サード)」の追加配備に、中国の反発を理由に反対する李氏に対し、「そんな弱腰ではむしろ平和が脅かされる」と反論した。

    北朝鮮が1月にミサイル発射を繰り返しても安保は主要争点とはみなされなかった。だが、米国もロシアのウクライナ侵攻を止められなかった現実を目にし、韓国内で「米軍は朝鮮半島有事に守ってくれるのか」との議論が沸き上がった。

    鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は2月25日、国会で「韓米同盟は強固だ」と強調。「韓国はウクライナと違って独自の防衛力も相当な水準だ」と安保不安の打ち消しに追われた。

    米欧や日本が打ち出した対露制裁に関し、韓国政府の参加表明が遅れたことも保守層の批判を招いた。経済的な影響もあるが、北朝鮮問題でロシアの協力が得られなくなることを懸念したためだとされる。文政権は常に対北融和を優先し、北朝鮮の後ろ盾の中露の顔色をうかがい、日米韓の安保協力が揺らいだとの批判にさらされてきた。

    李氏がテレビ討論で「ウクライナで初心者政治家が大統領になり、NATO(北大西洋条約機構)加盟を公言してロシアを刺激し結局、衝突した」と発言したことも物議を醸した。コメディアン出身のゼレンスキー大統領と政治経験のない尹氏を重ねて当てつけたものだが、苦境の中、奮闘するウクライナの指導者を愚弄する発言だと非難が殺到し、李氏は謝罪した。

    日米韓安保協力の立て直しを公約に掲げる尹氏だが、「有事に朝鮮半島への日本の介入を認めるか」との革新系野党候補の質問に対する答えも注目を集めた。「(自衛隊が)入ってくることがあり得るかもしれないが、必ずしも前提にしていない」と応じたが、李陣営は「自衛隊の介入を認めるものだ」として「日本の極右と区別がつかない」などと猛攻撃した。

    対日安保協力をめぐってはこうした感情的な議論が繰り返されてきた。新たに選ばれる大統領が悪習を脱し、現実的な安保を構築できるのかも注目される。


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