ISSを延命させたい米国、落としたいロシア
▼切っても切れないISSの米ロモジュール
ISSは、ロシア、アメリカ、日本、欧州のモジュールによって構成されているが、とくに米ロのモジュールはその中核を成しているため分離できない。太陽光パネルから得られる電力は米国側モジュールからロシア側に送られている。また、ロシア側のモジュールや無人補給機が搭載するエンジンは、ISSの軌道高度を維持するための唯一の手段となっている。ロゴージン氏が指摘しているのはこの点である。
▼ISSの運用期間、米国案を受け入れていないロシア
バイデン氏は昨年12月、「ISSの運用を2030年まで延長することを確約する」と発表した。しかし、ロシアはそれを完全に了承しているわけではない。
それ以前は、ISSの運用は2024年までとされていたが、ロシアのボリソフ副首相は昨年4月、従来の予定どおり2025年にISS運用から脱退することを表明。ロシアのモジュールで頻発した空気漏れに関する調査でも、2024年までの耐性は検証済みだが、米国が希望する2030年までの調査は完了していない。
ISSの継続運用に関して首を斜めに振っているロシアが、今回発表された米国の経済制裁によって、2025年にISSから完全離脱する可能性は低くないといえる。
その4ヵ月後には、ロシアは独自の宇宙ステーション「ROSS」を建設することを発表。経済的にも苦しい状況にあるロシアは、老朽化したISSを早く手放し、ROSS建設に予算を移行したいと考えている。
ギアナ宇宙センターからソユーズ発射要員が撤退
▼ロゴ―ジン「欧州に対する協力を停止」
ロシアがウクライナに侵攻した2日後の26日に、ロゴージン氏は再びツイートした。以下はその意訳。
「EU(欧州連合)が発令したロシアに対する制裁に対応して、私たちロスコスモスは、ギアナ宇宙センターにいるソユーズ・ロケットの発射要員と技術者を撤退させ、欧州に対する協力を停止しています」
ギアナ宇宙センターとは、南米大陸の北東、フランス領ギアナにあるCNES(フランス国立宇宙研究センター)が管轄するロケット発射基地。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡もここから打ち上げられた。
フランスをはじめとするESA加盟国は、ロケットを打ち上げるための企業「アリアンスペース」を共同で運営している。同社による打ち上げはこの宇宙センターがあるクールーで行われ、ESAが開発したアリアン・ロケットのほか、ロシア製のソユーズも使用されている。
このESAとロシアにおける協調体制は、これまでの宇宙開発においても重要な意味を成してきた。しかしウクライナ侵攻を機にロシアは、現地に滞在する87人のロシア人スタッフを、現場から退去させたのだ。
▼欧州の全地球航法衛星打ち上げに影響
同基地では今年4月と9月、ESAの全地球航法衛星「ガリレオ」の計4機をソユーズST-Bロケットで打ち上げることを予定していた。しかしこの紛争下では、その延期または中止は避けられないだろう。
また、ESAは現在、新型ロケット「アリアン6」を開発しており、2022年第4四半期中に初打ち上げを予定しているが、その開発は遅延気味だ。
ウクライナ侵攻でその他プロジェクトも断絶、続々と表面化
▼ロシア製エンジンを搭載した米ロケット「アトラスV」
米国ULA社の「アトラスV」ロケットは、自国の軍事衛星も打ち上げる国策ロケットだが、その第1段エンジンにはロシア製のR-180を搭載している。
当初から米議会ではこれを問題視しており、ジェフ・ベゾス氏が率いるブルー・オリジン社製の「BE-4」への換装が予定さているが、その開発は遅延気味本来予定されている2022年中の完成は難しいと見られている。
ロシア製RD-180のまま打ち上げるには、通常であればその製造元であるエネルゴマシュ社のスタッフがサポートするのだが、この状況下でそれも不可能になった。