ウクライナ侵攻で米ロの宇宙冷戦勃発 どうなるISS? 世界の宇宙計画は?

2月28日にロゴージン氏はツイッター上で、「米国はロシアの支援なしでRD-180を打ち上げる準備に入った」ことを批判し、「成功を願っています」と揶揄している。これに対して米ULA社のCEOトニー・ブルーノ氏は、「我々は過去96回に渡って同ロケットを打ち上げてきた。なんら問題ない」と、応えている。

▼ソユーズに依存…在米企業による「ワンウェブ」計画

ワンウェブとは、在米の企業が進めている衛星コンステレーション計画で、多数の小型衛星によって高速通信網を構築するというもの。最大のライバルはスペースX社のスターリンクだ。

このワンウェブの打ち上げの多くは、ロシアのソユーズ・ロケットに依存している。また、数多くの衛星を打ち上げる必要があるため、その打ち上げ頻度も高い。それらスケジュールが今回の紛争によって、当面キャンセルされる可能性がある。

他のロケットに予定を変更するにしても、ESAのアリアン6の開発は遅延しており、スペースX社のファルコン9はライバル会社のため利用しづらい。先述したアトラスVはロシア製エンジンのまま打ち上げが続行されそうだが、その他ロケットと同様、2年先までペイロード契約が確定していると思われ、空きがない。

可能性として高いのは、インドのロケット「PSLV」の利用だ。このワンウェブ社には、インドの通信事業会社バーティ・グローバル社の資本が入っている。そのツテを使えばPSLVでの打ち上げが可能かと思われるが、ただし、当初予定からの大幅遅延は避けられない。

▼ウクライナの宇宙産業の要所も爆撃? ISS無人補給機に影響も

米国に留学しているウクライナ出身の学生によって、「ユージュマシュ工場が爆撃され、もう存在しない」というツイートも投稿されている。

ユージュマシュ工場はウクライナの東部の街ドニプロにあり、主にウクライナ製ロケット「ゼニート」「サイクロン4」やそのエンジン、さらには米国ノースロップ・グラマンのロケット「アンタレス」の第1段の中央ユニットを製造している。

【アンタレスによるISS無人補給機シグナスの打ち上げ】

アンタレスはISS無人補給機シグナスを打ち上げているロケットだ。米国のISS補給機シグナスは、ULA社の「アトラスV」での打ち上げも可能だが、そのメインエンジンRD-180の使用停止要請をロシアが正式に出せば、その運用はスムーズではなく、結果、シグナスの打ち上げが滞ることになる。

2月21日にISSにドッキングしたISS無人補給機シグナスCRS-17(NASA)

もしユージュマシュ工場への爆撃が事実だとすると、そこから1.5kmしか離れていないユージュノエ設計局も被害を受けている可能性が高い。ここはユージュマシュ工場で製造される宇宙ロケット用のエンジンや、大戦後には旧ソ連のICBM用エンジンを開発設計してきた組織である。

▼ISSへの民間人宇宙旅行もフライト延期か

この3月には、アクシオム・スペース社によるISSへの民間人フライト・ミッション「AX-1」が予定されている。執筆時点(3月1日)で情報は出ていないが、この紛争下ではISSへの民間人のフライトは延期になる可能性が高い。

▼ロシアの金星探査機への米国参画「不適切」

ロスコスモスの公式ツイッター上において、ロゴージン氏は26日、「(米国による)新たな制裁措置の導入と、以前(2014年のウクライナ侵攻)に課された制裁が継続されているため、ロシアの金星探査機「ベネラD」(2029年打上予定)へ、米国が引き続き参画することは不適切だと考える」と、その私見を述べた。この計画にためにNASAとロシアは共同科学チームを2015年に立ち上げており、NASAや在米企業が航法システムや観測機器などを開発中だった。

ISSから撮影された侵攻される以前のキエフの夜景(NASA / ESA)

ロシアがウクライナに侵攻したことにより、各国が築いてきた宇宙開発における協調関係が、わずか一週間足らずで大きく崩れはじめた。宇宙開発には長い時間が掛かり、そこには予算だけでなく、あらゆる関係者の努力が投入されているにも関わらずだ。

以後10年間における宇宙開発に大きな期待を寄せる者としては、事態がさらに悪化しないことを願うばかりだ。

【宇宙開発のボラティリティ】は宇宙プロジェクトのニュース、次期スケジュール、歴史のほか、宇宙の基礎知識を解説するコラムです。50年代にはじまる米ソ宇宙開発競争から近年の成果まで、激動の宇宙プロジェクトのポイントをご紹介します。アーカイブはこちら

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