ロシアのウクライナへの侵攻を受けて、製薬や電子部品をはじめとするメーカーのサプライチェーン(供給網)に影響が出始めている。ロシア領空の飛行が規制され、国際物流事業者は別ルートの検討を急ぐが、代替便確保は簡単ではなく「荷物が滞留している」と悲鳴が上がる。正常化には時間がかかる見通しで、メーカーからは「(今後の状況が)全く読めない」という嘆きが聞こえている。
ジェネリック医薬品(後発薬)大手のサワイグループホールディングスによると、ウクライナから調達していた抗がん剤の原薬の1つで、輸入が止まっているという。当面の在庫はあるため製品供給に問題はないとしているが、昨年から動いていたドイツからの調達手続きを急ぐ。広報担当者は「情勢を予測することは難しく、事態を見守るしかない」と話す。
田辺三菱製薬はロシア、ウクライナから原料の直接調達はしていないが、担当者は航空便への影響を懸念。「中長期的にどうなるか、全く読めない」と困惑する。
こうした懸念が示すように、大きな影響が出ているのが、ロシア領空を経由する航空輸送だ。欠航が相次ぎ、物流各社はロシアを避けて迂回(うかい)する「南回り」での輸送ルート確保を急ぐ。
距離が伸びる分、時間と燃料代がかかるが、阪急阪神エクスプレスの担当者によると、「代替便は簡単に見つからない。1週間前と状況が一変した」。海上貨物への切り替えも確保が難しく、「国際貨物の需給はかなり逼迫(ひっぱく)している」(近鉄エクスプレス)という。
半導体などの自社製品の約9割を空輸している電子部品大手のロームは、欧州向け半導体については「一部空路変更はあるが、別ルートで輸送できているので問題はない」としている。ただ、物流業界関係者は「長期計画を立てられる状況にない」とする状況だ。
また、回転ずし店で根強い人気のあるイクラの軍艦巻きは「スシロー」や「くら寿司」がロシア産を採用。仕入れ先と長期契約を結んでおり、冷凍した在庫もあるため「値上げや、すぐに品切れすることはない」とするが、「ロシアからの輸入が滞れば、米国産などに切り替えたとしても仕入れ値が上がる可能性は否定できない」と口をそろえる。
三菱UFJ銀行の土屋祐真シニアエコノミストは「緊迫した情勢は長期化する。物流への影響は玉突きで起きてくるので、供給網を見直す企業が出てくるだろう」と指摘している。