定年後も元気に働こうと考えるアクティブシニアの雇用に「難聴」が影を落としている。65歳以上の就業者は全国で1000万人に迫りつつあり、企業にとっては貴重な戦力。一方、聞こえづらさで仕事を思うように進められないと悩む高齢者も多く、聴覚にまつわる問題の対応は急務だ。ただ、日本では補聴器の普及が海外よりも遅れているという事情もある。背景には「耳が遠い」ことへのマイナスイメージの強さも指摘され、眼鏡のような手頃な価格とファッション性を兼ね備えた新ジャンルの聴覚サポート器具には商機も見出されている。
60代の4割「聞こえにくい」
「耳の日」の3月3日、東京・池袋にある居酒屋チェーン大手「養老乃瀧」の本社に、10人ほどのシニア世代の男性が集まっていた。新型コロナウイルスの影響で若手人材の飲食業界離れが深刻化するなか、アクティブシニアの積極雇用に切り替えた同社が実施した「耳の社内研修」だ。
同社がこうした研修を開催する背景には、シニア世代の男性が人知れず抱える難聴の問題がある。研修で聴覚の仕組みについて解説した順天堂大学医学部の池田勝久名誉教授によると、難聴は女性よりも男性が発症しやすく、50歳でも3割が発症。60代では4割が「聞こえづらさ」を感じている実態が報告されているという。
研修に協力した、聴覚サポート器具を手掛ける日米韓共同のスタートアップ企業「オリーブユニオン」(東京都目黒区)が、補聴器・集音器の購入者を対象に実施した「聞こえと労働」に関する調査では、「聞こえづらさが仕事に支障をきたしている」との回答が7割に上った。一方で57%が「聞こえづらさを感じなければ定年より長く仕事をしたい」と答え、難聴が労働意欲に水をさしている様子が浮かび上がった。
こうした状況に、養老乃瀧の特命チームのリーダーである籾谷(もみや)佳生さんは「シニア世代に仕事を継続してもらうには聴力のサポートが必要。シニア雇用を今後積極的に展開する上で、会社側が先回りしてストレスのない環境づくりをすることが大切」と考える。