カセットテープはこの先なくなってしまうのか。マクセル ライフソリューション事業本部の三浦健吾さんは「デジタル化で需要は落ちているが、長年ご愛用いただいているお客様がいる。今一番人気なのは“10分のテープ”だ」という。詳しく話を聞いた--。
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1989年には年間5億本以上の需要があった
カセットテープが全盛期を迎えたのは、1980年代だ。背景には、1970年代にラジオ受信機とカセットテープレコーダーが一体となった「ラジオカセットレコーダー(ラジカセ)」が、一般家庭に普及したことがある。
ラジオ番組から流れてくるお気に入りの音楽を録音する「エアチェック」や、屋外にラジカセを持ち出して環境音を録音する「生録」など、カセットテープはさまざまな用途で使われるようになっていった。
その後も売り上げを伸ばし、バブル経済が絶頂を迎えていた1989年には国内で年間約5億本以上の需要があったという。
その後、CDやMDなどのデジタル録音ができる記録媒体が主流となったことで、カセットテープ人気は徐々に陰りを見せていった。
2000年代以降は、iPodに代表されるMP3音楽プレーヤーの登場に続き、インターネットを介した音楽のダウンロードやストリーミングといったデジタル音源が浸透してきたことで、カセットテープの需要は全盛期と比べると大きく減少してしまった。
コアなファンとシニア世代に根強い人気
しかし、スマホやPCで音楽を聴くのが一般化した現在でも、「カセットテープはコアなファンに愛され続けている」とマクセル ライフソリューション事業本部で事業企画部長を務める三浦健吾さんは話す。
「カセットテープは、深みのある音やアナログ特有の音質が特徴で、今のデジタル音源のように『0』と『1』の信号で統一された音質では味わえない独特の良さがあります。1970年代以降のカセットテープ全盛期を過ごしたオールドファンやシニア世代の方には、今でもカセットテープの存在はなじみ深く、根強い人気があると感じています」
マクセルは1966年にカセットテープ生産を始めた。市場の成長を牽引してきたことから、特に50~60代以降のシニア層には「マクセル=カセットテープ」のイメージが強く残っているという。
いち早く日本にカセットテープの需要を作り、時代とともに移り変わるニーズに合わせて「ハイポジション」や「メタルポジション」といった技術を発展させるなど、マクセルブランドを着実に築き上げてきたわけだ。
一番売れているのは「10分テープ」
現在は、全盛期に比べ需要が減っていることもあり、同社が販売しているカセットテープは「UR」シリーズのみとなっている。
それも、カセットテープ全盛期に見られた150分や120分のテープは取り扱っておらず、90分から10分までの4種類のタイムバリエーションで展開しているそうだ。
「全盛期に比べてカセットテープの需要が見込めなくなったことで、品質の高いテープ原反の入手も難しくなっており、現在は90分、60分、20分、10分と4種類のタイムバリエーションに絞っています」
そんななか、4種類の長さのうち「10分テープ」が意外なニーズにはまって一番人気を誇っているという。
それがシニア世代を中心としたカラオケ需要だ。
「カセットテープが登場した頃は、60分や90分が主流でしたが、1980年代にカラオケブームが盛り上がりを見せ、その需要に応えるために10分のカセットテープを発売しました。歌を練習するのに、10分という長さはちょうど良く、さらには巻き直しも楽なのでカラオケの練習に都合がいい。その名残が今でもあるため、シニア世代を中心に10分テープが最も多く売れているんです。また、テープレコーダーも再生ボタンを押すだけのシンプルな操作で手間いらずなので、スマホなどの最新機器に慣れていないシニア世代でも使いやすいというのが、支持されている理由だと考えています」