輸入小麦の4月からの政府売り渡し価格は、北米産地の不作を受けて過去15年で2番目の高値をつけた。足元では、ロシアによるウクライナ侵攻が地政学リスクとして穀物市場を激しく揺さぶっている。小麦の大部分を輸入に頼る日本でも、中期的に穀物関連の食料品価格上昇が必至の情勢だ。
小麦は多様化した食生活を支える重要穀物で、日本は9割を海外依存することもあり、安定的な供給のため政府で調達する仕組みになっている。政府は買い付け価格の結果を元に半年ごとに売り渡し価格を改定するため、天候や作柄見通しで日々激しく変動する穀物市場価格を直接には受けにくい構造だ。調達国は米国、カナダ、オーストラリアの3カ国で、製粉会社の安定供給への懸念もあってロシアからの調達はない。
ただ、ロシアのウクライナ侵攻で、小麦の国際価格指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物価格は2月下旬から急騰、3月に入ると14年ぶりに最高値を更新した。両国は小麦貿易の計3割を占める輸出大国で、「世界の穀物倉庫」の役割を果たしているためだ。
資源・食糧問題研究所の柴田明夫代表は「今後、北米小麦の奪い合いが起きるのではないか」と予測する。中東や北アフリカは世界の小麦の4割以上を輸入しており、ウクライナ産小麦の主な輸出先にもエジプトやトルコといった国々が顔をそろえる。ロシアやウクライナからの小麦供給不安が高まれば、日本の調達先でもある北米産に調達先を移行せざるを得なくなる。ウクライナの今春の作付けに侵攻の影響が出れば、世界の供給量そのものが縮小しかねない。
柴田氏は、こうした中で日本の政府調達は「供給不安局面では量の確保を優先して高値でも買い付ける」ため、10月の政府売り渡し価格も値上げの可能性が高いと指摘。国際的な調達競争が激しくなっている現状を踏まえ「食料安全保障の観点から、農業の在り方含め国内の食料生産を伸ばす政策へと抜本的に見直すべきではないか」とはなしている。
(日野稚子)