【ソウル=時吉達也】9日の投開票当日に、新型コロナウイルスの新規感染者数が初めて30万人台に達したことが明らかになった韓国大統領選。選挙運動期間中も感染が拡大の一途をたどり、期日前投票では防疫対策の不備から締め切りが4時間遅れるなど、感染症に翻弄される前代未聞の選挙戦となった。
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床に散らかった封筒、職員の目に触れない部屋の片隅に放置された段ボールや紙袋。5日夕、コロナ感染者らを対象にした期日前投票では、ずさんな投票用紙の管理を告発する写真や動画が、SNS上に次々と投稿された。
感染対策として、有権者が投票用紙を投票箱に直接入れるのではなく、封筒に入れて事務員に渡すことになっていたが、事前に詳細な対応策が整備されず、混乱を招いた。「政府による不正選挙」との〝陰謀論〟まで広がる事態に「小学校の学級委員選挙でさえ、ここまでずさんではない」(最大野党「国民の力」幹部)などと批判が続出。選管は謝罪に追い込まれた。
2020年の新型コロナの流行以降、総選挙などの主要選挙では目立ったトラブルは発生していなかったが、今回はオミクロン株の流入、拡散が直撃した。コロナの新規感染者数は1月下旬に初めて1万人を超えてから約6週間で30倍に膨らみ、依然として収まる気配はない。
選挙戦に便乗し、防疫対策で禁じられた大規模デモを行う宗教団体や労働組合も目立った。デモは遊説会場が集会制限の例外となっていることに目を付け、泡沫(ほうまつ)候補の遊説を偽装する形で強行された。警察当局が捜査に乗り出している。
感染の拡大に伴う選挙戦の混乱が深刻化する中、韓国政府が防疫制限の緩和にかじを切ったことにも批判が相次いだ。飲食店の営業時間延長に対し、中央日報は「選挙を控え、政府が自営業者の票を意識した」と指摘。安全性が確認できないまま「防疫ギャンブル」に踏み切ったとする専門家の分析を紹介した。
東亜日報は「コロナ対策までポピュリズム(大衆迎合主義)なのか」と題した社説で、早期の営業規制撤廃を主張する与野党の候補者らを批判。飲食店の営業時間を1時間延長すれば感染者の規模が97%拡大するとの当局調査を挙げ、「防疫に対する(国民の)疲労に便乗して無責任な公約を投げかけるときではない」と訴えた。