本連載で紹介してきた人たちに共通している点がある。子どもの頃から好奇心旺盛だ。それが一つ。もう一つはかけ離れた2つの領域や志向の間で、自分はどこに投錨するかを懸命に考え続けてきた。いや、今も考えている。
その迷い、苦しみ、楽しみは誰にでもある。紹介してきた人に限らない。でも、ぼくが会って紹介してきた人たちは、その歩み方に好感をもてる場合が多い。
フェデリカ・コディニョーラは人文学と経営学の間を歩いている。彼女はミラノ・ビコッカ大学の准教授である。経営学を本拠地としながら、その研究対象はアート市場だ。
当然ながら、アート市場に関するレポートやメディア記事をたくさん読む。ただ、彼女は「一番重視しているのは、アートに関わる人たちとの雑談です」と語る。そのためギャラリー、オークション、アートフェアにできるだけ足を運ぶ。
コレクターの動機には自らの精神的向上だけでなく、投資、企業イメージの向上、政治力学など、さまざまな要因が複雑に絡む。どれか一つだけであるわけもない。だから、その複雑な絡み方を全体の構図として理解できないといけない。
そこで雑談が頼りになるのだ。無数の対話の重なりがあり、ある共通要素が浮かび上がる。現象の背景はそのように理解できる。
メディアを通じた情報チェックは欠かせない。トップレベルのコレクションがひっぱるグローバルな動向が、結果的に人々の趣向のトレンドをつくる。それが他のコレクションのための購入指標になっている現実はある。
しかし、これには「残念ながら」との追記が必要だ。なぜなら同時に表層的な動向を促進しているからだ。
「(トップのコレクターも)主流を壊そうとする勇気が足りないように見えるのです」とフェデリカは話す。