ウクライナ医師ら窮状訴え 小児がん 地下鉄で療養 医薬品不足

    ロシアによる軍事侵攻で、ウクライナの小児がん患者らの病状悪化が懸念されている。ロシア軍の爆撃を恐れ、医療機関では地下室に退避しての療養が続くが、医薬品不足が深刻化しつつある。治療のために国外に脱出させたくても搬送時の安全が確保できず、動くに動けない。支援団体は生命の危機に直面した子供たちの窮状を訴え、早期の戦争終結を願っている。

    キエフにとどまり、小児がん患者らの診察にあたるリシツァ医師(左側)(本人提供)
    キエフにとどまり、小児がん患者らの診察にあたるリシツァ医師(左側)(本人提供)

    「朝から爆撃音が響き、みんなパニックになっている」。ウクライナの首都キエフの子供病院で、小児がん患者らの治療にあたる医師のレシア・リシツァさん(35)は9日未明(現地時間8日夜)、電話越しにこう訴えた。

    ロシア軍が首都制圧に向けて攻勢を強める中、小児がん患者らは病院の地下室に逃れて暮らしている。医薬品などの物資が不足している上、室内は湿気を帯び、衛生面でも課題が少なくない。

    ウクライナ最大規模の小児がん患者支援団体「タブレトチキ」によると、国外退避を希望する小児がん患者は1千人以上。だが、実際に隣国ポーランドなどの病院に搬送することができたのは、今月7日時点で100人ほどしかいない。

    国境の検問所には一般の避難民が殺到しているが、早急な治療を要する患者らを載せた車両はポーランド政府が手配した護送車が先導し、優先的に出国できる。病状の程度によっては、さらにドイツやオランダなどの病院へ転院させるなどした上で、迅速に治療を受けられる環境が整備されている。

    ただ、戦火が広がる現地に残された小児がん患者らの多くは搬送ルートの安全が確保できず、中継地点の西部リビウまで移動することさえ困難を伴う。空爆による犠牲者が出ているキエフ北方のチェルニヒウ州などでは、患者と接触することも難しいという。

    タブレトチキのユーリア・ノゴヴィツィナさん(41)は「早く治療しないと患者が死んでしまう」と焦燥感を募らせる。

    ロイター通信などによると、世界保健機関(WHO)は8日、ロシア軍の侵攻後、病院など医療機関への攻撃が17件あり、死者10人、負傷者16人が出たと発表。「ここ数日で極めて急速に増えている」とし、危機感を表明した。救急車が乗っ取られ、救急医療以外の目的に転用された例も報告されているという。

    リシツァさんは「ウクライナにとどまる小児患者たちは軍事侵攻による死の恐怖にさらされているだけじゃない。治療が中断してしまうことで、生命の危機に陥っている」と指摘。「医師として可能な限り治療を尽くすが、一刻を争う命のためにも戦争の早期終結を願っている」と話した。

    (植木裕香子)


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