中国の習近平政権は5日、立法機関、全国人民代表大会(全人代)で今年の国内総生産(GDP)実質成長率の政府目標を「5.5%前後」に設定したと発表した。景気を下支えするため、金融政策を一段と緩和するほか、減税や税の還付、地方交付税交付金に相当する一般移転支出の拡大など積極的な財政政策を講じる方針だ。
地方政府も高めの成長を目指して、インフラ投資を大幅に拡大する構えだ。31省・市・自治区の成長率目標の加重平均は6.1%に達する。人口1億人の河南省は、高速鉄道、発電所、水利、工業を重点的な投資分野に挙げ、固定資産投資を前年から10%拡大することで、7%成長を目指す。
「東数西算」が新たなキーワードとなっており、情報通信分野の投資にも積極的だ。「数」はデータ、「算」は計算能力を指す。再生可能エネルギーが豊富で電力コストが低い西部に大規模なデータセンター(DC)を設置することで、東部のさまざまなデータを効率よく処理する。こうした構想の下、山西省はDCなどを重点分野として固定資産投資を前年から8%以上拡大する計画である。もっとも、新型コロナウイルス流行を抑え込む「ゼロコロナ」政策が続くことで成長率目標の達成は困難だ。青島や深圳などでは厳しい活動制限が続いている。
こうした中、海外メディアでは中国政府はゼロコロナ政策緩和の検討に入ったと報じられている。しかし、中国国営メディアは、世界各国の死者数の多さを強調しているほか、オミクロン株に続く変異株を警戒するよう呼び掛けており、警戒感はなお強い。また、香港での感染拡大を受けて、中国共産党の機関紙である人民日報は「新型コロナとの共生は誤り」と香港の感染対策を強く批判した。年内に一部都市で試験的な緩和策が導入されることはあるとしても、中国全体としてはゼロコロナ政策が長期化する可能性が高く、景気に逆風となるだろう。(日本総合研究所調査部主任研究員 関辰一)
せき・しんいち 平成18年早大大学院経済学研究科修士課程修了。20年日本総合研究所入社、31年から調査部主任研究員。拓殖大学博士(国際開発)。専門分野は中国経済。著書に「中国 経済成長の罠」。40歳。中国上海出身。