「運送、バス業界から侵食されていく」日本で増殖を続ける“中国製EV”の本当の怖さ

    ※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Cylonphoto
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     なぜ日本製のEVは海外で売れないのか。経済ジャーナリスト・井上久男さんと対談した元東大特任教授の村沢義久さんは「日本車はもはや後発の中国、韓国勢にも負けている。『日本企業の負けパターン』を繰り返しているからだ」という--。(第2回/全3回)

     日本車はもはや世界の選択肢に入っていない

     【村沢義久氏(以下、村沢)】とうとうヒョンデ(旧ヒュンダイ)のEVが5月に日本に上陸しますね。

     EVの世界では、中国や韓国が日本より先行しているのですが、一部のモータージャーナリストや、閉鎖的な人達は、そういう動きが気に食わないように見えます。

    【井上久男氏(以下、井上)】そういう民族感情みたいなものはあるかもしれませんね。

     【村沢】ヒョンデや起亜のEVはかなり良さそうだと思っています。ただ、「韓国EVが優れている」と言われると、民族感情が刺激される人がいる。それで、「中国・韓国のEVはバッテリーが爆発する」とか、そういうことばかり書かれてしまう。

     前回<「EVは自動車産業の破壊者である」そんな議論を続ける限り、日本車の敗北は避けられない>で、日本車は技術でテスラに負けているという話をしました。ただ、EVに関しては、テスラのみならず、欧州勢、中国・韓国勢にも負けているんじゃないかと危惧しています。

     欧米では、EVの選択肢が「テスラか、ヨーロッパ車か、それとも韓国車か」となっています。近年、そこに中国勢が加わってきました。

     その結果、日本車メーカーは選択肢から外されつつあります。日産「リーフ」が後退しているし、トヨタのEV本格参入はまだまだこれからです。

     【井上】トヨタはまだ販売しているEVがほとんどないですからね。実際、日本車メーカーが負け始めている部分はあると思います。

     高級EV市場には日本車の居場所がない

     【井上】EVは今後、高級車と格安エントリー車に二極化すると思います。なぜかというと、まだバッテリー価格が高いので、航続距離を長くするために電池の容量を大きくすると、価格がどうしても高くなるんですね。

     ベンツとか、レクサスといった高級車を全車EVにしますよと言っているのは、そういう事情が背景にあります。一方で、中国の「宏光MINI EV」のように、10kWhくらいのバッテリーしか載せていないかわりに、50万円を切る格安EVも登場しています。航続距離は100キロ程度ですが、買い物の足になればいいという人にとっては十分です。

     【村沢】ハイエンドEVでは、航続距離など性能がかなり向上しています。米国ルーシッドの「エア」は、1900万円と高額ですが、航続距離は800キロ以上。このカテゴリーにはベンツもいるし、テスラも「モデルSプレイド」を投入しています。ここに日本車メーカーが参入して、果たして勝機はあるのでしょうか。

     【井上】難しいでしょうね。ハイエンド市場では、日本車メーカーの居場所がなくなってきていると思います。一方、エントリー市場はまだ可能性があるかもしれません。日産や三菱は軽EV参入を表明していますが、価格次第では売れると思います。

     配送車、バス…日本製が弱い分野が狙われている

     【井上】商用車では中国の進出が始まっています。佐川急便やSBSホールディングスは、大規模なEV調達を発表しています。このEVは、日本のベンチャー企業が企画開発を担当し、生産は中国メーカーに委託することになっています。

     大手物流企業は上場していますので、環境対策に敏感です。また、アマゾンなどの荷主企業が、脱炭素化を求めるという側面もあります。また排ガス対策としても、EVシフトのニーズは高いです。

     【村沢】アマゾンは配送用の特注EVを、リビアンというベンチャーから、約10万台も調達すると発表していますね。

     【井上】大手物流企業以外でも、EVのニーズはあると思います。「全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会」の方たちもEV化を考えていると聞いています。ただ、そういうニーズを満たす日本製EVがないのが現状です。そのため、中国製EVを買わざるを得ないのです。

     【村沢】中国製EVバスの導入も進んでいますね。この分野ではBYDが世界トップです。日本での導入台数は現時点ではまだ数十台ですが、BYDジャパンは2030年までに累計で4000台という販売計画を発表しています。

     2019年の上海モーターショーにおいて、私はBYDの担当者に「唐」「宋」といった彼らのEVを、日本で売る気はないかと尋ねました。彼らの回答は、「日本で乗用車を売るのは難しい。そのため、商用車で参入することを考えている」というものでした。

     実際、BYDはその数年前から、日本のバス市場に進出していたのです。バスもまた、日本製EVが存在しない市場です。日野やいすゞといったメーカーは、これからようやくEV開発に取り組むという段階です。

     そうした、日本車が弱い分野から、じわじわと中国車に侵食されている印象です。


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