戦後の帰還事業で北朝鮮に渡り、その後脱北し現在は日本で暮らす60~80代の男女5人が「基本的人権を抑圧された」などとして北朝鮮政府に5億円の損害賠償を求めた訴訟の判決が23日、東京地裁であった。五十嵐章裕裁判長は「北朝鮮が朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)とともに、北朝鮮の状況について事実と異なる宣伝による勧誘を行った」と認定。請求自体はいずれも退けた。
/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/AWT23LERHFODXCJATQLVS45YHY.jpg)
北朝鮮は昭和34~59年、在日朝鮮・韓国人と日本人配偶者ら家族を対象に、朝鮮総連とともに「北朝鮮は十分な衣食住や無償教育・医療が保障された『地上の楽園』である」などと宣伝して帰還事業を推進し、9万3千人以上が渡航したとされる。
原告らは「虚偽の宣伝にだまされて渡航し長年、北朝鮮内に不当に留め置かれた。家族が今も北朝鮮からの出国を妨害されている」と主張。訴訟では、日本の裁判所に訴えの管轄権があるか▽北朝鮮政府の不法行為に損害賠償を請求できるか-などが焦点となった。
判決理由で五十嵐裁判長は、原告らが北朝鮮に留め置かれた留置行為、家族への出国妨害行為については、「日本の裁判所が管轄権を有しない」と指摘。
一方で、帰還事業への勧誘行為は日本国内で行われており「管轄権がある」と認定。北朝鮮は未承認国のため、主権国家は他国の裁判権に服さないとする「主権免除」の原則に該当せず、日本の法律が適用できるとした。
ただ、勧誘行為に対する原告の損害賠償請求権は、20年間の除斥(じょせき)期間が経過しており、すでに消滅していると結論づけた。
訴訟は平成30年8月に提起。昨年10月の第1回口頭弁論で原告らの尋問が行われ、即日結審した。北朝鮮側は出廷せず、訴えに対する認否の書面提出もなかった。