ウクライナ侵攻 「勉強に集中できない」奪われる子供の教育機会 国内大学で避難学生受け入れ

    ロシア軍によるウクライナ侵攻から24日で1カ月となり、市街地への攻撃が激しさを増している。戦争の長期化は子供たちの教育機会を奪い、爆撃の標的になった学校もある。大学生の一部は避難先で学習に励むが、ストレスが集中力を失わせる。教員はオンラインでの授業再開に希望を見いだし、戦禍の中を奔走している。(永井大輔)

    オンラインで取材を受けるアサドチフ・オクサーナ教授
    オンラインで取材を受けるアサドチフ・オクサーナ教授

    「戦争のニュースから目を離せず、勉強に集中できない」。首都キエフにあるキエフ国立大で日本語を学ぶ言語学部4年のマリヤさん(21)はこう嘆く。隣国ポーランドに避難し、学習内容を忘れないように毎日、日本語の文章を読んでいるが、戦争のことが頭を離れることはない。

    マリヤさんを指導するアサドチフ・オクサーナ教授(43)は、メッセージアプリなどで24人の教え子の無事を確認するのが日課だ。ロシア軍の侵攻後、大学は休校しているが、締め切り間近の卒業論文を抱える学生にはビデオ通話などで指導を行う。残りの学生にも、ウクライナ語のテキストを日本語に訳す課題などを出しているという。

    新型コロナウイルス禍で以前からオンライン授業が中心だったこともあり、ビデオ通話での指導に支障はない。ただ、戦禍での学生の避難状況は一人一人異なる。教科書やパソコンを持ち出せず、着の身着のまま避難した学生や、実家のあるキエフに残り、地下に避難している学生もいる。ビデオ通話での指導中に警報が鳴り、学生が慌てて避難することもあった。

    言語学部4年のシカラプタ・アナスタシアさん(21)は「勉強に集中できないことと空襲警報が鳴ったときの避難行動」が難点だと訴え、「学生生活とはいえない状況。卒業さえできれば十分だ」と話す。

    オクサーナさんが最後のオンライン授業を行ったのは、侵攻前日の2月23日。学生から「ロシアは戦争を始めると思いますか」と聞かれ、オクサーナさんは「思いません」と即答した。ロシアとの軍事衝突はクリミア併合をめぐる8年前から続いており、恐怖心はあっても、戦争に発展するとまでは考えていなかった。「では来週も時間通りに会いましょう」。いつものように別れを告げた。

    翌24日未明、ロシア軍が侵攻を開始し、キエフ市内にも爆発音が響き渡った。オクサーナさんは大学から教科書などを持ち出し、実家のある西部の街へ避難した。以来、授業は止まったままだ。それでも前向きな姿勢を崩さない。「戦争が終われば、奪われた部分を補って余るほどの力がわいてくると信じている」

    オクサーナさんによると、大学は来月1日の授業再開を目指しており、学長たちから連日、会議の連絡や出席を促すメールが届く。オクサーナさんも、学生の学習意欲が高まっていることを期待し、再開後すぐに集中的な授業ができるように準備を進めている。「爆弾の音が聞こえなくなったら、学生たちと授業の続きをしよう」。オクサーナさんは力を込めた。

    ロシア軍のウクライナ侵攻を受け、日本国内の大学ではウクライナの学生を避難民として受け入れる動きが広がっている。

    日本経済大(福岡県太宰府市)は23日までに、キエフ国立言語大で日本語などを学ぶ学生3人を受け入れた。両大学は令和2年から学術交流の協定を結んでおり、4月上旬をめどに避難を希望する計72人を迎え入れる準備も進めている。

    1年間の授業料は全額無償とし、住まいには大学の寮を提供。食事などの生活費も、支援基金を創設して寄付を募って補う。

    都築明寿香(あすか)学長は16日付で出したコメントで「ウクライナ侵攻に大変心を痛めている。学生たちに希望と継続した学びの機会を提供したい」としている。

    長崎大(長崎市)も18日、ウクライナ人の大学院生約30人と大学生約10人を1年間の予定で受け入れると発表した。募集方法は検討中で、住居は大学の宿舎を提供するという。

    同大の担当者は「原爆による被害を受けた長崎の復興に学問は不可欠だった。原爆の惨禍を経験した大学として、戦争で学びの場を奪われた学生に学び続ける場を提供することを決めた」と話している。


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