お台場の商業施設「ヴィーナスフォート」(東京都江東区)が27日、23年近くに及んだ歴史に幕を閉じる。同館は商品を所有する「モノ消費」から、体験や思い出に価値を見いだす「コト消費」時代の先駆けとして平成11年8月に開業。買い物をショッピングエンターテインメントに進化させ、未開の地であった臨海副都心の魅力を押し上げる一翼を担ってきた。同館を管理運営する森ビル(港区)などにより、跡地ではお台場の新たな価値を生み出す再開発が予定される。(鈴木美帆)
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ヴィーナスフォートは、大観覧車や、先端技術を駆使するアート集団の作品を常設展示する「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス」などを含む複合施設「パレットタウン」内の商業施設。8年に開催予定だった世界都市博覧会が中止となり、予定地を民間の力で活性化させようと森ビルなどにより計画が始まった。当時のお台場はほぼ更地で周辺施設と距離があり、公共交通機関のアクセスも脆弱(ぜいじゃく)だった。
「全天候型で家族で楽しめる総合エンタメリゾートの街を目指した」と話すのは、同館の立ち上げに携わり、初代館長となった同社特任執行役員、荒川信雄さん(58)。「女性のテーマパーク」をコンセプトに掲げ、買い物も食事も楽しめ気分転換ができる「非日常の遊び場」を目指した。
眺望に恵まれないため、外観はあえて飾りやテラスのない巨大コンテナのように仕上げた一方、館内は中世ヨーロッパの街並みを再現。噴水や街灯、石造りの装飾を配し、天井には雲を描き照明演出により昼夜を表現するなど非日常感を演出した。参考にしたのは、古代ローマを再現した米ラスベガスの商業施設。開業前の出店説明会では、出店候補の担当者を実際にラスベガスの施設まで連れて行った。
「都心ではできないことができる」。荒川さんらはヴィーナスフォートを舞台に、常に新しいことに挑んできた。開業前にテレビドラマのロケ地として使用したり、開業翌年の元日午前0時から「世界一早い福袋」を販売したりと話題も集めた。館内の広い通路を生かし、1階はペット歩行を可能に。21年には23区初のアウトレットフロアも誕生させた。
近隣に続々と開業した商業施設との回遊性や交通機関の発達によりお台場の魅力は向上。昨年開催された東京五輪も臨海副都心の再開発に拍車をかけた。
今回のヴィーナスフォートの閉館は、共同事業者であるトヨタグループの東和不動産(名古屋市)による多目的アリーナ建設計画(令和7年開業予定)に伴うパレットタウンの再開発によるもの。変貌を遂げたお台場で、次世代に向けたさらなる先進的な街へ生まれ変わらせるという。
当初は人が訪れるか不安だったという荒川さんは「時代に合わせて対応、挑戦、継続した積み重ねだった」と振り返る。「お台場はまだ可能性がある。進化した時代に合ったものを提案していきたい」と、同館で培われた挑戦心を、新たな開発に生かしていきたいという。(鈴木美帆)