『あのこは美人』フランシス・チャ著、北田絵里子訳(早川書房・2970円)
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「わたしには わたしの地獄、あのこには あのこの地獄。」。帯を目にした瞬間、呼ばれた気がして本を手に取った。その昔、私がテレビ局員だった頃、ふいにカメラを向けられ絞り出した言葉とそっくりだったから。真っ黒な瞳の女性がぽつねんとこちらを見つめる表紙をめくると、それぞれの地獄でもがき苦しみながらも力強く生き抜く女の子たちの姿があった。
整形手術を繰り返して手に入れた美貌でルームサロン(ホステス付きの個室クラブ)で働くキュリはソウルのアパートに住んでいる。向かいの部屋に住む発話のできない美容師のアラはアイドルの推し活に忙しく、スジンはルームサロン嬢への転身をもくろみ着手した整形手術の後遺症に苦しんでいる。容姿に恵まれたアーティストのミホは、財閥の御曹司である彼氏の浮気を疑っている。そして4人のすぐ下の階に夫と暮らすウォナは、職場の雰囲気から妊娠を上司に言い出せない。彼女たちの共通点は、地方都市出身で韓国の厳しい階級社会で生き抜くための後ろ盾も特権も、何も持っていないということだ。
オムニバス形式で章が進み、視点が変わる度にルッキズム(外見至上主義)や学歴差別、収入格差といったそれぞれが直面する切実な問題が浮かび上がる。毒々しいまでの現実に覚えがあるからこそ苦しい。だって私はジェンダーギャップ指数が先進国最下位で、女性の働きやすさランキング29カ国中28位の国に住んでいる。ちなみに29位は韓国。
辛(つら)い現実を描写しながらも読後は意外と爽やかだ。なぜなら、彼女たちはたたき潰されようと嘆いて終わりにはしないから。この地獄のような世界で何度となく心を折られながらも、手を携え合って、しぶとく、強(したた)かに、生きていく。
これからも雨は降る。私たちは傘を持たない。でも、夜中でもデリバリーのチキンにかぶりついて体力をつけよう。ダイエットなんて知ったことか。私たちは、一緒に生き延びる。
『少女を埋める』桜庭一樹著(文芸春秋・1650円)
ただ自分らしく生きたくて、そのために共同体から抜け出し都会に住まう人たちがいる。私もその一人。個別性は祝福だと言い切る力強いその叫びに、誠実でまっすぐな表現に、私はひとりじゃないとぼろぼろ涙がこぼれた。出ていかないし、従わない。私はずっと桜庭一樹の言葉に救われ、生きている。
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<うがき・みさと>平成3年、兵庫県生まれ。TBSを経てフリーアナウンサーとして活動。テレビ出演のほか、各誌にコラムを連載するなど活躍の場を広げている。