2022年はウェルビーイング元年ともいわれ、 大企業を中心に健康経営に続き、ウェルビーイング経営に注目する動きが強まっている。2021年6月18日に国が出した成長戦略実行計画でも、新たな日常に向けた成長戦略の考え方の中で、「国民がWell-beingを実感できる社会の実現」と記されており、都道府県もそれぞれの成長戦略の中で、ウェルビーイングに着目し始めている。 そのような中でウェルビーイングとモビリティの関係は、特に地方において最も大切なテーマになってきている。
■ウェルビーイングに着目する理由
ウェルビーイングとは何か。2022年3月19日の出版後に早くもベストセラーとなっている、幸福学の専門家で慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏と前野マドカ氏の共著「ウェルビーイング」(日本経済新聞出版)によると、1946年に世界保健機関(WHO)の憲章で、心と体と社会の観点から「ウェルビーイング」であること、すなわち「よい状態」であることが健康の定義として示された。
企業がいま、身体の健康に重きを置いた健康経営ではなく、ウェルビーイング経営に着目する理由は、人材マネジメント上の必要性が高まっているからだ。ハーバード・ビジネス・レビューによると幸福感とパフォーマンスの関係については、幸福度の高い社員の創造性は3倍、生産性は31%、売上は37%高く、幸福度が高い従業員は欠勤率や離職率が低いといわれている。 企業では心を痛めて離職する社員が多いことなどが課題となっている。
また、国や自治体にとってもウェルビーイングは大切だ。公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹氏は、ウクライナでの事例を示しながら「主観的なウェルビーイングが幸せの礎になっており、社会の一つの物差しとなっている」と話す。
■富山県の成長戦略
こうした中、2022年3月12日から21日にかけて、富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」が開かれた。2020年に民間から知事に当選した新田八朗氏を中心に、2021年から県民とともに作り上げた富山県の成長戦略についての議論を、関心を寄せる県内外の人と深めるためだ。
富山県の成長戦略のキーワードは、主観的な幸福度を重視した「ウェルビーイング(真の幸せ)」だ。富山県がウェルビーイングを掲げる理由は、経済成長による物質的な幸せを実感することが難しい現代において、お金に換算できない価値観の創出が求められており、収入や健康といった外形的な価値に囚われず、自分らしく生きられる富山を目指したいと考えているからだ。
富山県の成長戦略はこれまでトップダウン的に作られてきたが、今回は県民や専門家とともにボトムアップ的に作ってきた。また、県民人口の100万人にこだわらず、幸せという大きな傘のもと、富山で暮らす人、仕事をする人、よく訪れる人、生まれ育った人といった、富山に愛着を持って関わるすべての人を仲間と位置付けて、「幸せ人口1000万人」をビジョンに掲げている点も特徴的だ。
筆者が聞く限りでは、他の都道府県でウェルビーイングを掲げる成長戦略はないようだが、国の成長戦略でも示されたトレンドであるため、今後は地方でもウェルビーイングや幸せをキーワードとした成長戦略が増えてきそうだ。
■「疎」の解決に役立つモビリティ
こうしたウェルビーイング実現のカギをにぎる分野のひとつがモビリティだ。今回の「しあわせる。富山」では、「食と自然」「アクティビティ・ヘルスケア」「クラフト・アート・創作」と並び、「モビリティ・過疎・人口減少」のテーマでもスペシャルセッションが組まれた。モビリティはウェルビーイングを実現したり保ったりするためには必要不可欠でありながら、なかなか解が見当たらない課題でもあり、関心が高い。