JR35年(上)

    赤字ローカル線「誰が負担」 乗客減にコロナ追い打ち 経営方式転換で廃線回避も

    国鉄が分割民営化され、JR各社が発足してから4月1日で35年を迎える。存廃の岐路に立つ赤字地方路線問題やリニア中央新幹線整備など「効率性」を旗印に挑んだ長年の課題は、沿線の反発で先行きの見えない状況が続く。新型コロナウイルス禍による業績悪化で経営に余裕が失われていく中、JRが掲げる効率性はどこへ向かうのか。

    近くに短期大学や住宅地があるため、三陸鉄道リアス線の開業時に新設された八木沢・宮古短大駅。乗客は新たに乗車した1人を含めて2人のみだった=15日朝、岩手県宮古市(福田涼太郎撮影)
    近くに短期大学や住宅地があるため、三陸鉄道リアス線の開業時に新設された八木沢・宮古短大駅。乗客は新たに乗車した1人を含めて2人のみだった=15日朝、岩手県宮古市(福田涼太郎撮影)
    三陸鉄道リアス線
    三陸鉄道リアス線

    「維持に税金が出ているのに、みんな自分事として考えていない」

    「誰も乗っていない列車を見ていると頭に来る」

    岩手県沿岸部を縦貫する三陸鉄道リアス線の宮古~釜石(55.4キロ区間)の沿線住民は異口同音に、鉄道の必要性を訴えつつ乗客の少なさを懸念する。

    この区間はJR東日本が盛岡からのびる山田線の一部として運営していたが、東日本大震災で被災した。維持費を抑えられるBRT(バス高速輸送システム)による同社の仮復旧案に地元は首を縦に振らず、県や沿線自治体などが出資する第三セクターの三鉄が経営を引き継ぐことで決着。JR東は復旧費や協力金など計約200億円を負担した。

    平成31年3月、三鉄が運営していた南北のリアス線と路線を一本化する形で全線開通した。沿岸部の移動が乗り換えなしでできるなど利便性が向上し、継続的な大幅増収を見込んだがコロナ禍などで利用が低迷。旧北リアス線が舞台のNHK連続テレビ小説「あまちゃん」(25年)の集客効果も既に消えた。通学や通院の一定需要はあるが、1日上下計26本という少なさから、令和2年度の利用者数は1日当たり2000人を下回った。3年度の業績は国と自治体の補助金込みでも大幅赤字の見通しだ。

    なぜ鉄道か。三鉄の村上富男事業本部長は「観光客などが全国から乗り継いで来ることができる」と長距離移動手段としての優位性を指摘。「バスとタクシーだけのこぢんまりとした街になれば、さらに人は来なくなり、企業もいなくなる。一体的に考えないと地方が消滅する」と訴える。

    地方路線の赤字問題は国鉄時代から露見していた。当時は1キロ当たりの1日の平均乗客数が4000人未満がバス転換の目安で、昭和55(1980)年の国鉄再建法では83路線がバス転換や三セクへの移管が進められた。過疎化は止まらず、道路網の発達でマイカー利用が拡大。乗客減は運行本数の削減を招き、利便性低下がさらなる乗客減につながる悪循環に陥り、JR発足後も在来線計694キロが廃止された。不採算路線を多く抱えるJR北海道とJR四国の2社には、今も国が手厚い財政支援を続けており、完全民営化は程遠い状況だ。

    国土交通省によると、昨年度実績で、JR6社の営業距離のうち国鉄時代の目安とされた4000人を割り込んだのは57%に上った。2000人未満でみると39%で、厳しい状況が明らかになった。赤字路線の維持には都市路線や新幹線など採算路線の収益が充てられるが、コロナ後も需要は完全に戻らないと予想され、JR東は「維持していくのは難しくなる」と話す。

    国交省は今年2月、自治体もオブザーバー参加する地方鉄道の在り方を検討する有識者会議を設置した。同省幹部は「地元に危機感を共有してほしい」と狙いを語る。地元は存廃議論を避けたいため、JRなど事業者側との協議には消極的な傾向があったという。

    有識者会議は鉄道廃止を促すものではなく、「地域にとってどういう形がいいのか、両者でよく話し合ってほしい」(同省幹部)と強調。両者の協議を促す仕組みも検討する方針だ。

    国内外の鉄道改革に詳しい東洋大の黒崎文雄教授は地域の存続に果たす鉄道の役割に理解を示す一方で、「完全民営化した会社に何でも負担を押し付けるのは(効率性を求める)国鉄改革の精神に反している。鉄道を残すのであれば、誰が便益を享受し、費用負担すべきなのかを考えることが重要だ」と話している。

    JR側から経営移管を受けた三陸鉄道リアス線(宮古-釜石区間)のように、経営方式を転換することで廃線を回避した地方鉄道の事例は各地でみられる。

    県や沿線自治体などが出資する第三セクターに移管されるケースが多く、富山地方鉄道富山港線のように三セクを私鉄が吸収合併した事例もある。

    福島県と新潟県を結ぶJR只見線は、平成23年の豪雨被害で不通となった会津川口-只見(いずれも福島県、27.6キロ)区間のみ、県が土地や鉄道施設を保有し、JR東日本が運行する「上下分離方式」を採用。JR東が運賃収入を得て線路使用料を支払う仕組みだが、利用者が少なくても同区間の運行経費が赤字にならないよう使用料は減免されるという。

    運行再開は年内の予定。地元の要望で赤字覚悟の鉄道による復旧となり、県の担当者は「只見線は地方創生のシンボルで存在自体が財産」と説明している。


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