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2011年―震災後の日本をヴィヴィッドに照射した3杯のラーメン「2011年組」

東日本大震災という逆境にさらされたニッポン経済。2011年の外食シーンで存在感を発揮したのは、原色を鮮やかにまとった3杯のラーメンだった――その時代に台頭したラーメンに焦点を当て、日本経済の興隆と変貌、日本人が紡いだ食文化の変遷を活写する本連載。今回は、テン年代に勃興した気鋭の職人たち「2011年組」に焦点を当てる。未曾有の大災害、モノクロームに沈んだ日本を原色で彩ったラーメンの姿とは。

震災後の外食、ラーメンシーンに光は差すか

ゼロ年代末の日本経済は、2008年のリーマン・ショックによる景気後退から立ち直りつつあった。米国はじめ海外市場が活気を取り戻し、日本からの輸出が増加していたことが背景にある。国内製造業を中心に、日本全体の生産活動は回復し始めていたのだ。そこに襲来したのが、3月11日14時46分の東日本大震災だ。

東日本大震災から11年を迎え、笑顔の写真やスマイルマークのイラストで飾られた東京・銀座の「和光本館」のウインドーディスプレー=11日午後2時54分(飯田英男撮影)
東日本大震災から11年を迎え、笑顔の写真やスマイルマークのイラストで飾られた東京・銀座の「和光本館」のウインドーディスプレー=11日午後2時54分(飯田英男撮影)

三陸沖を震源とし、日本での観測史上最大規模となるマグニチュード9.0の地震が発生――。被災地の工場は損壊し、サプライチェーンは寸断。回復途上にあった製造業のダメージは日本経済全体へと波及する。設備投資・輸出のすべてが急激に落ち込み、同年1~3月期の実質GDP成長率は前期比-0.9%(年率-3.7%)と2四半期連続になるマイナス成長となってしまった。

消費マインドも冷え込んだ。全国的に不要不急の支出を控える動きが強まり、同1~3月期の個人消費は-0.6%。中でも影響が甚大だったのは外食産業だ。3月の外食売上高は前年同月比で-10.3%。これは、日本フードサービス協会が同集計を始めた1994年以来、最大の落ち込みである。

こんな時こそ、ラーメンだ。戦災からの復興、ヤミ市からの立ち上がりを支えたのも、湯気立ちのぼる丼だった。多くのラーメン店は炊き出しなどで被災地支援を行い、有志による「ラーメン義援隊」も結成されるなど、草の根支援は活発化していく。

しかし、4月には政府が輸入小麦の引き渡し価格を18%引き上げ、それを受けて各製粉会社は業務用小麦粉の値上げを発表。同月には「物価の優等生」と呼ばれる鶏卵の価格が鳥インフルエンザ騒動以来、6年ぶりの高値をマーク。麺の小麦粉、具材の卵といった食材価格が高騰する中、街角にもダークナイトが訪れようとしていた。

電力不足が深刻化し、東京電力管内で実施されたのが「計画停電」だ。JR東日本は東海道線を午前中運休にし、山手線も間引き運転。繁華街の街頭やネオン広告、路上の自販機すらその光を減じた。首都圏をはじめ全国のラーメンシーンには沈鬱な空気が漂っていく。

暗転するラーメンシーンに名乗りを上げた「2011年組」

日本経済、そしてラーメン業界もその光を大きく減じた、この年。本連載で紹介した「96年組」と並び、後年「2011年組」と称される気鋭の3店がオープンする。『饗くろ㐂』(6月8日)、『ソラノイロ』(6月14日)、『牛骨らぁ麺マタドール』(7月21日)である。

現代ラーメンのあり方を提言した96年組に対し、この2011年組は「ラーメンの概念を再構築した」功績がフィーチャーされる。本稿では、消費マインドのモチベーターという観点から語ってみたい。2011年組こそ、光を失ったニッポン経済に「原色の奔流をもたらした」アルチザンなのだ。

色彩という観点からラーメンを振り返れば、ラーメンは醤油のブラック、豚骨スープのアイボリー、麺のイエローを基調に開発が進んできた。そこに、オレンジの衝撃をもたらしたのが『ソラノイロ』だ。店主・宮崎千尋は『博多一風堂』、同系列の『五行』で11年に渡る修業を経て独立。カフェの概念を取り入れたコンセプト提案し、女性客やアスリートをターゲットにした商品を開発するなど、既存ラーメン概念へのあくなき挑戦で知られる。

彼が創業にあたって開発したのが、スープも麺もオレンジ色の「ベジソバ」だ。センターで存在感を発揮するのは蒸しキャベツの千切り。脇を固めるのも野菜たち。ブロッコリー、ジャガイモ、パプリカもどっさりとトッピング。丼のふちに塗っているのは、赤ゆずこしょう&マッシュバターだ。原色を重ねた油絵のようなルックスから一転、味わいは多様な旨みのミクスチャー。

鶏と魚介のダブルスープに合わせる塩ダレはムール貝、干しエビ、ホタテなど海産物のエッセンスを濃縮。ニンジンをグラッセした野菜ピュレからはほんのりとした甘味、パプリカパウダーを練りこんだ麺からはピリッとした辛味も感じられる。

真紅のトッピングで彩りを発揮したのが『饗くろ㐂』だ。店主の黒木直人は和食店やイタリアンで腕を磨き、「グローバルダイニング」「レインズインターナショナル」のメニュー開発に携わるなど、外食産業で広範な技術、知見を重ねてきた料理人。彼が2011年当時、和食のスキルに裏打ちされた端整な「塩そば」と並び、濃度・粘度を高めた「味噌らーめん」を投入し、話題を呼んだ。


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