難民の受け入れに「後ろ向き」ともされた日本政府が、ロシアの侵攻を受けたウクライナ避難民の積極支援に乗り出している。戦争から逃れた人は、国連の難民条約に基づく「難民」と定義されないが、ウクライナの悲惨な実態に、政府も人道的観点を重視し、「避難民」として受け入れている。今回の事態は日本周辺で懸念される有事の危機管理態勢の強化にもつながりそうだ。
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「ウクライナの人々との連帯をさらに示す」。避難民対応を統括する松野博一官房長官はこう強調する。
本来、ウクライナ避難民は受け入れが困難なケースとされる。日本は1951年に採択された国連の難民条約に基づき、難民を受け入れている。同条約は人種や宗教、国籍、政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあり、国外にいる者を難民と定義する。ウクライナ避難民のように国家間の戦争で退避した人々は、狭義でこの条約の定義には当てはまらず、日本は人道的配慮から特例的な「避難民」として保護している形だ。
難民は5年の在留資格や永住許可要件が緩和され、日本国民同様の年金や福祉手当などを受けられる。一方、避難民は最長90日間の短期滞在が条件となるなど制約があり、難民の受け入れよりもハードルが低いともいわれる。
また、「日本にとって事態は人ごとではない」(政府高官)との指摘もある。中国は台湾の武力統一の選択肢を公然と表明。北朝鮮が核・ミサイル開発を継続する朝鮮半島にも懸念がくすぶる。有事では大量の避難民が日本国内に流れ込む恐れがあるからだ。
政府は当初、親族や知人が日本にいるウクライナ人の受け入れを想定した消極的な対応にとどめていた。ただ、情勢の悪化で支援の幅は一変。運賃が高額で渡航を断念する避難民への対応策として、政府専用機による日本移送も決めた。
難民問題に詳しい国連UNHCR協会の滝沢三郎特別顧問は「現在は避難民ブームとも言える状況だ。一過性で終わらせず、受け入れの意義に関する議論を深め、法制度の検討も急ぐことが重要だ」と述べた。(中村昌史、岡田美月)