日本銀行が1日発表した3月の企業短期経済観測調査(短観)では、円安がロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料高に拍車をかけ、企業収益を圧迫する実態が鮮明になった。恩恵が見込まれる輸出業種でも業況判断指数(DI)が悪化したことで、円安が「日本経済にプラスに作用している基本的構造に変わりはない」(黒田東彦総裁)という日銀のこれまでの説明にも、疑問符を突き付けた形だ。
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円安は、一般的に輸出や海外で事業展開をする大企業の収益を押し上げる。事業計画の前提となる対ドルの想定為替レート(全規模・全産業)は令和3年度で1ドル=110円、4年度で111円台後半を見込んでおり、既に10円程度円安に振れた足元の水準は本来ならば企業に追い風のはずだ。
だが、3月の短観では代表的な輸出業種として位置付けられる自動車(大企業)でDIが7ポイント下落、電気機械で5ポイント下落、業務用機械で3ポイント下落と、それぞれ悪化した。円安が助長する原材料価格の高騰が輸出のプラス効果を上回ったようだ。野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストは「円安による景況感改善は明確に確認されず、日銀にとっては不利な結果になった」とみる。
また、足元の物価上昇が「一時的」だという日銀の説明も揺らぐ。短観では物価上昇率の見通し(全規模・全産業)が1年後に1・8%、3年後と5年後はそれぞれ1・6%に達した。大企業製造業は4年度の収益計画について前年度よりも減益を見込み、「コスト上昇の懸念で企業は先行きに慎重になっている」(JPモルガン証券の鵜飼博史チーフエコノミスト)。
大企業が守りの姿勢を強めれば、下請け先の中小企業にも悪影響が及ぶ。東京都大田区で精密加工業を営む新妻精機の新妻清和社長は「円安の進行で取引先の大手の収益が圧迫され、新型コロナウイルス禍で減った仕事がさらに減ることを懸念している」と漏らす。金属加工会社「タカヨシジャパン」(大阪府八尾市)の高島小百合社長も「これからの(原材料の)値上げが怖い」と、円安によるコスト増を転嫁する動きを警戒する。
ウクライナ危機を背景にしたエネルギーや原材料価格の急騰は、長年のデフレ下で価格転嫁が進まなかった日本経済の景色を変え、食料品など身近な商品の値段が次々と上がり始めた。全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率は携帯電話料金の値下げ効果が剝落する4月以降、日銀が政策目標に掲げる2%まで到達しそうだ。
米債券市場では景気後退の予兆とされる長短金利の逆転現象(逆イールド)が発生するなど、物価高と景気悪化が重なる「スタグフレーション」が世界経済の先行きに暗い影を落とす。日本でも企業や家計へのしわ寄せが一層強まれば、円安を後押しする大規模な金融緩和を続ける日銀に批判の矛先が向かいかねない。(高久清史)