ロシア人教師、1本のインスタ投稿で教職も国も追われ 「政府のプロパガンダを映す鏡にはならない」

    ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアでは、異論を排除する言論統制が激しさを増している。「政府のプロパガンダを映す鏡になりたくない」。自身のインスタグラムにこう投稿したモスクワの教員は解雇された揚げ句、反体制派指導者との結託も疑われ、いまは祖国を追われて国外で身を隠す。教員は「言論の自由がなければロシアは衰退する」と、母国の行く末を憂慮する。

    インスタグラムの投稿がきっかけとなり、職と国を追われたカマラン・マナフリーさん(本人提供)
    インスタグラムの投稿がきっかけとなり、職と国を追われたカマラン・マナフリーさん(本人提供)

    投稿したのはモスクワの中等教育を行う学校で、地理の教師として教鞭(きょうべん)をとっていたカマラン・マナフリーさん(28)。ロシアによるウクライナ侵攻開始後の3月8日、「私は政府のプロパガンダを映す鏡になりたくない。私には私なりの意見がある。他の先生だって同じだ。必ずしも政府の意見と同じではない」と率直な気持ちをつづった。

    きっかけは2月下旬の職員会議での通達だった。「公務員として(侵攻を特別軍事作戦と呼ぶ)政府の立場を逸脱するような指導はしないように」と伝える校長に対し、マナフリーさんは納得がいかなかったからだ。

    投稿には「戦争」という表現はなかった。それでも書き込んだ約2時間後、校長から「すぐ削除しなさい。そうでなければ辞職するように」と厳命された。「教員としてロシアの将来を担う子供たちを指導する責任がある。ロシアが自由で経済的に豊かな国に発展するには多角的に物事を考え、論じられる人材を育てることが重要だ」。マナフリーさんは削除を拒否し、「子供らを一つの考えに固執させるような政府の道具にはなりたくなかった」と話す。

    熟慮の末、退職する覚悟を決めた。削除命令の翌日、辞表を胸に学校を訪れたが、校内に入ることさえ許されなかった。生徒らが恩師との別れを惜しむために集まろうとした事態をとらえ、「違法な集会を開催しようとしている」と学校側から警察に通報され、「辞職」ではなく「解雇」処分を言い渡された。

    理由は「職場で道徳に反する行為に及んだため」。マナフリーさんは「自分の意見を発信することが道徳に反することなのか」と、異論を許さない空気に憤りを感じたという。

    学校側は追い打ちをかけるように、マナフリーさんへの弾圧を強めた。

    解雇処分を言い渡した校長らは他の教員らに対し、マナフリーさんが米国やドイツなどに旅行した際の写真を手に、虚偽の情報を流布した。「彼は服役している反体制派指導者と結託している。西側諸国の手下だ」と言い放ち、「あらゆる手を使って彼を投獄に追い込む」と語ったという。

    身の危険を感じたマナフリーさんは現在、「場所は言えないが、安全な場所で生活している」と国外で暮らす。一方で「現政府支持の世論から、多くの国民が変革の必要性を感じるように変われば、言論統制も改善されるのではないか」と訴えながら、一日も早い事態の収束を願う。

    「そして、自分もいつか家族も友人もいる場所に戻りたい」


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