一部にある「ウクライナ早期講和論」は敗北主義 「不撓不屈」の抗戦意思こそ国を救う

    これに対し、ヒトラーはロンドンなどに対し大規模な空襲を執拗に繰り返し、チャーチルやイギリス国民の抗戦意思を挫こうとしたが、彼らは最後まで屈することなく最終的な勝利を手にした。戦いにおける意思の強さが持つ意味をこれ以上鮮やかに示すものは無い。同じ覚悟を持って戦っているゼレンスキー大統領を中心とするウクライナの人々に対し、それは無意味だからロシアの要求をある程度受け入れて早々に講和するべきとする言説は、あまりにも非礼であり、結果としてロシアを利するものといわれてもやむを得ない。

    ウクライナはロシアの要求をある程度受け入れて早々に講和するべきとする言説は、あまりにも非礼であり、結果としてロシアを利するものといわれてもやむを得ない(Getty Images)※画像はイメージです
    ウクライナはロシアの要求をある程度受け入れて早々に講和するべきとする言説は、あまりにも非礼であり、結果としてロシアを利するものといわれてもやむを得ない(Getty Images)※画像はイメージです

    侵略者に屈しない強い決意こそ侵略を抑止する

    その上、そのような言説は、ロシアや中華人民共和国の権力者に日本組し易すしという誤った判断をさせかねず、日本の抑止力を毀損する危険性を内包している。

    ここで、ウイグルの民話を紹介したい。その民話は、地獄の炎で焼かれて苦しむ人々を目の当たりにした蛇と燕の物語だが、祖国「東トルキスタン」を奪われたムカイダイス氏が、その著書『在日ウイグル人が明かす ウイグル・ジェノサイド ―東トルキスタンの真実』(ハート出版)で紹介しているものだ。

    燕は火を消し人々を助けるために口で水を運ぶ。

    蛇は芝を拾って炎にくべる。そして、燕をあざ笑いながら言う。

    「愚かな燕よ!そんなことして火が消えるわけがない。早く諦めなさい」

    燕は答える。

    「蛇よ、お前の目に苦しむ人々が映っていないのか。彼らを助けたい。私はその信念で動いている。多くの人が私のように信念を持てば地獄の炎が消えるからだ。お前こそ愚かである。いずれその炎でお前が焼かれるのは明白なのに、その炎を大きくしているのだ」

    示唆に富むと思う。前掲書で、ムカイダイス氏は、こうも言っている。「この本(註:前掲書のこと)が、日本の皆様に「国があり、そして主権国家の国民として生まれる幸せ」あるいは「国がないことがどういうことか」などを考えさせてくれることを願う。そして、ウイグルの歴史が、侵略を容易に許す側も侵略者同様に平和の破壊者であり、罪人であることを悟らせてくれることを願う。」、「侵略者は悪者だが、それを許した側、先祖代々の命を育ててきた国土を敵に渡してしまい、子孫を敵の手で殺すことを許した私達の責任と罪を、私は常に考えている。」と。悲痛で重い言葉だと思う。

    日本という国は、今に生きる我々だけのものではない。我々の幾多の先人のものでもあり、我々の子、孫、さらには100年先、200年先の国民のものでもある。鎌倉時代、侵攻してきた元に対し、北条時宗を中心とする武士団が元の巨大さに怯むことなく勇敢に戦ったことが今の日本につながっている。我々も、日本という国を、100年先、200年先の日本国民に伝えていくべき義務を負っている。

    現行憲法には国を護る義務は明記されていないが、国を守る義務は、憲法に規定されて始めて発生するものではなく、先の世代から日本を引き継いだ今の世代が、先の世代と後の世代に本然的に負っているものというべきだろう。チャーチルのように、侵略者に対してはどんなに犠牲が大きくなっても屈しないという強い決意があることを示すことこそが抑止力の根幹であることを忘れないようにしたい。

    ウクライナの主権と領土の一体性が守られ、ウクライナの人々がロシアの非道に斃(たお)れた家族、同胞の遺体を、尊厳をもって埋葬し、その魂を安んずることができる日が一日も早く訪れることを心から願うばかりである。そして、いつか、ウイグルの人々が自分たちの国を持つことができる日が来ることも。


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