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「だから中国企業に負けるようになった」ソニー元CEOが危惧する日本企業の“官僚依存”という大問題

PRESIDENT Online

日本の製造業はなぜ中国に勝てなくなったのか。ソニー元CEOの出井伸之さんは「ものづくり神話から抜け出せず、IT技術との融合がうまくできていないのが原因だ。さらに、日本の民間メーカーには官僚依存症という大きな問題も残っている」という――。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bet_Noire

※本稿は、出井伸之『人生の経営』(小学館新書)の一部を再編集したものです。

日本が停滞感から抜け出せない最大の原因

日本経済がどん底にあるなかで、中国が安い土地と安い人件費で“世界の工場”として名乗りを上げ、ものづくりの主役になっていきます。

僕は現在の日本がいまだに停滞感から抜け出せていないのは、戦後復興を成し遂げたものづくり神話から抜け出せていないのが最大の原因だと思っています。

ものづくりの時代の発想というのは、新しいテクノロジーを自分で開発して、それを使った製品を作れば、みんなが「すごい、すごい」と買ってくれてヒット商品になり、大量生産してコストを下げて利益を出すというものです。

しかし、今のインターネットの時代は逆で、「こんな製品がほしい」「あんなサービスがあればいいな」というユーザーの声に耳を傾け、すでにある技術あるいはベンチャーが開発した新しい技術を組み合わせて実現する。料金も「いくらならユーザーは払うか」で決める。なんなら無料にして、ユーザー数を増やして広告など別の手段で稼げばいい。グーグルやフェイスブック(現メタ)、アップルなどはみなそうです。自分で新しいテクノロジーを開発する必要は特にないのです。

判子のデジタル化は“攻めのデジタル”ではない

発想のベクトルが逆で、これこそがデジタル革命なんです。そこを誰もわかっていなくて、書類に捺す判子をデジタル化するだのなんだのと言っているのを見ていると、空しくなってきます。こんなのは“守りのデジタル”であって、新しいものを生み出す“攻めのデジタル”ではありません。デジタル革命とは何かをいまだに理解しないまま、右往左往しているのが今の日本です。

こうした歴史を知らなければ、世界の中で今の日本企業が置かれている立ち位置がわからないし、これから世界とどう戦っていくべきかも見えてきません。

高度成長時代の日本企業で働いていたサラリーマンは楽だったと思います。「そんなことはない。猛烈に忙しくて、猛烈に働いたぞ」と反論する方もおられるかもしれませんが、あの時代には、自分が何をすればいいのか誰もがわかっていて、確実に明るい未来があり、定年までこの会社で働いていられるという安心感がありました。目の前の仕事に邁進していれば、業績は右肩上がりに伸びました。未来を信じられれば、仕事がいくら忙しくても辛くはない。むしろ楽しかったはずです。

トヨタでさえものづくりからの転換に四苦八苦

ところが今は180度、環境が変化してしまいました。

「市場はシュリンクする一方で、何をどうすれば商品が売れるのかわからない」<br />

「テクノロジーサイクルが驚くほど早まり、自分のスキルがどんどん陳腐化していく」

そんな不安を抱えて仕事をしているサラリーマンは多いと思います。

なぜこうなったのかというと、ものづくり神話に囚われているのと、グローバル化に対応できていないからだと思います。

自動車業界は、まだものづくりの発想が通用している業界ですが、トヨタですら、そこからどう転換していくかで、のたうち回っているように見えます。ガソリンとエンジンが電気とモーターに替われば、部品点数が激減します。制御もデジタルになり、ソフトウェアがより重要になっていきます。そうすると、人手がいらなくなって、今まで20万人必要だった従業員が10万人で十分といったことになります。これも“有形資産”から“無形資産”への転換の一種と言えます。

日本では正社員の人数を減らすのは非常に難しいので、10万人で十分となっても、会社は残りの10万人の面倒を見なければなりません。

これは勝手な憶測で、少々よけいなことを述べたと思いますが、おそらくトヨタなどは、必ずしもものづくり神話に囚われているわけではなく、今の体制を転換するのがあまりにも難しくて、捨てるに捨てられないというのが現実だと思います。

中国でパワーワードになっている「OMO」

日本ほど、ものづくりが洗練されている国はありません。特に「部品」の単位になると、極めて優れた製品が生み出されてきます。それを全部捨て去る必要はありません。

僕は日本より、中国での方がむしろ有名人で、請われて多くの中国企業のコンサルティングをしていますが、今、中国でパワーワードになっているのは、「OMO(オンライン・マージズ・ウィズ・オフライン)」という言葉です。「オンラインとオフラインの融合」という意味で、ハードとITを融合させて、新しいビジネスモデルをつくれということです。

中国人のビジネスマンは、「中国にはものづくり企業がある。IT企業もある。だから、両者がぶつかれば、大きなビジネスチャンスになる」と言います。中国は世界の工場としてものづくりの主役になりましたが、もうその先を見据えているのです。

だけど、日本ではこういう話はほとんど聞かないんですよ。中国を始めとするアジア諸国の台頭の前に日本の製造業は縮小を余儀なくされています。こうした現実をもっと真摯に受け止めて製造業の新たな枠組みを創るべきでしょう。

たとえば、自動車業界では「電動化」と「自動運転」がホットイシューになっていますが、「電気で走るから静かですよ、エコですよ」「ハンドルから手を離しても走るんですよ」というだけでは、ものづくりの発想から抜け出ていないのです。

運転から解放されたら、自動車はただの移動手段ではなくなります。電動化して運転する必要がなくなった自動車は何に使えるのか、そこでどんなサービスができるのか。ハードとITが融合した先にあるビジネスモデルを考えることが重要なのです。フィンテックで金融と技術を融合させるとか、フードテックで食料と技術を融合させるとか、言葉だけはいろいろと出てきますが、それで何ができるのか、何をしたいのかが重要です。


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