クラスター多発の高齢者施設を往診 医師が訴える「第7波」備えのキーポイント

    新型コロナウイルスの感染「第7波」に備え、高齢者施設への対策や支援が急務となっている。大阪では昨年12月以降の第6波で病床が逼迫(ひっぱく)する中、要介護の施設入所者らが速やかに初期治療を受けられずクラスター(感染者集団)が多発、死者が相次いだ。入所者の治療にあたってきた医師は、施設職員の心理的負担の解消が重要になるとしている。

    点滴薬の投与を受ける高齢者施設の患者=3月15日、大阪市内(KISA2隊提供、一部画像処理しています)
    点滴薬の投与を受ける高齢者施設の患者=3月15日、大阪市内(KISA2隊提供、一部画像処理しています)

    「感染防御の考え方が十分に浸透していない。入所者だけでなく、介護や事務のスタッフも対処方法を身につける必要がある」

    開業医らでつくる往診チーム「KISA2(キサツ)隊」のメンバーで、「葛西(かっさい)医院」(大阪市生野区)院長の小林正宜(まさのり)医師(39)はこう強調する。

    小林正宜医師
    小林正宜医師

    大阪府によると、第6波で発生したクラスターのうち、感染者数の約5割を高齢者施設関連が占めた。昨年3~6月の第4波は37%、同6~12月の第5波では15%だった。また居所不明を除く死者の約4割が陽性判明時に高齢者施設などに入所しており、施設内での感染防止対策と初期治療の拡充は喫緊の課題といえる。

    府が2月中旬に設置した窓口には、施設側から「感染対策の助言」に関する問い合わせが50件以上寄せられている。府の担当者は「感染の有無に関係なく、どう対応すればいいのかという声が多い」と話す。

    実際、往診チームが訪れた府内の高齢者施設の多くは、感染区域と非感染区域を分ける「ゾーニング」をしていなかった。陽性の入所者であってもマスクや手洗いをせずに施設内を徘徊(はいかい)。職員は医療用マスクではなく、一般用を2枚重ねで着用していた。

    防護服で治療に臨んだ小林院長は「治療に加え、スタッフが感染を防ぎながら業務を遂行できるような支援が必要だ」と語る。往診時はゾーニングやごみの分別、食事の提供時間の設定などをアドバイスし、心理面での負担や懸念を軽減させることを心がけているという。

    改善の動きはある。2度のクラスターに見舞われた大阪市内の施設を3月半ばに小林院長が訪れた際は、ほとんどの高齢者が2重マスクとフェイスガードを着けていた。最初のクラスター発生後、専門看護師が入って指導したという。

    小林院長は「認知症の高齢者はマスクを外してしまうという先入観を持たず、根気強く呼びかければ定着するはず。感染者を出さないための予防策を伝え、感染症に強い施設をつくっていきたい」と述べた。

    大阪府も備え急ぐ

    大阪府は、高齢者施設でクラスターと死者が続出した第6波の反省を踏まえ、所要の対策を講じている。

    2月に「高齢者施設等クラスター対応強化チーム」を府庁内に設置。専門の看護師らが24時間対応のコールセンターで相談を受け、感染対策の助言や治療支援などを担う。支援要請を受ければ保健所と調整し、24時間以内の往診医療機関の選定を目指す。

    府によると、約3600の高齢者施設のうち、中和抗体薬などのコロナ治療を行う医療機関を確保しているのは約3割(今月1日時点)にとどまる。府は、協力する医療機関向けに補助金を用意し、4日までに101機関が登録した。

    計約4500の高齢者・障害者施設に勤務する無症状の職員ら約16万人を対象に、3日に1回の抗原検査(任意)を府の負担で行うことも決め、受け付けを始めた。早期に陽性者を把握し、入所者への感染拡大を防ぐ狙いだ。吉村洋文知事は「頻回検査によって施設で感染を起こしにくくする。感染すれば亡くなる人が多い高齢者施設を守りたい」と話している。


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