「読んで損したと思われる文章」に共通するものはなにか。ライター・作家の奥野宣之さんは「ビジネスマンの中には、エビデンス、プライオリティ、ペンディングといった輸入言葉を使いまくる人がいる。こうした文章は読み手の脳にダメージを与えるだけだ」という――。(※本稿は、奥野宣之『心をつかむ文章術 無敵の法則』(アスコム)の一部を再編集したものです。)
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「読む価値がありそうだ」と思わせる文章のポイント
「人の心をつかめない文章」、もっといえば「読んで損したと思われる文章」に共通するものはなんでしょうか?
それは、「文章にツヤがないこと」だと私は考えています。ぱっと見て誤字脱字だらけといった明らかな欠陥がない場合、もっとも重要なのが、テキストそのものの魅力だからです。
文豪の小説のような繊細さも、記事のようなわかりやすさも必要ありません。「ツヤのある文章」は、いわば両者のあいだです。さらりと読めて、すっと頭に入って、少し唸らされる。「人の心をつかむ文章」には、この「ツヤ」が備わっているのです。
文章を書くとき、まず考えなければならないのは、「どのように読みはじめてもらうか」です。メールであれ企画書であれ、読み始めてすぐ「なんか面倒くさそうな文章だな」と思われたら、初っぱなから仕事に差し障りが生じてしまいます。
文章の冒頭で、「これは読む価値がありそうだ」と思わせるような“ツヤ”を出すことが、書き手にとっての第一目標となります。
難しそうに思えますが、実は誰でも簡単にできるコツがあります。
それは、「とにかく断言して書く」方法です。
たとえば、あなたが消費者の行動について「近ごろ、焼鳥屋に女性客が増えているような気がする」と書きたいとします。このとき、「気がする」なんて曖昧な言い方をグッとこらえて、「近ごろ、焼鳥屋に女性客が増えている」と書いてみる。そんなやり方です。
「え、何の根拠があってそんなこと言えるの?」と思ったとしても、とりあえず、機械的に強く断定してみる。そのうえで、「強引な断定」から、続く文章を考えていきます。
最初に断定したのだから、続く文章も遠回しな言い方や語尾を曖昧にボカしにくくなる。そこから自然と展開していくうち、だんだん文章が勢いづいていきます。文章にも「慣性の法則」があるのです。
思い切って、断定的な言い切り表現を使ってみると、一つひとつの文章が自然と短くなり、テンポもよくなっていきます。
「ほう」「という」「など」…ボカシ言葉は排除する
文章を「断言調」にするために大切なことがあります。ついつい文章に入れたくなる「ボカシ言葉」を排除していくことです。
よくある「ボカシ言葉」とその使用パターンの例は以下の通り。
・ほう:鈴木のほうが失礼しました/御社のほうでご用意いただけますか
・という:○○という意味で/△△ではないのかという気がした
・など:○○や△△などの行為/「□□」などというユーザーがいる
・ある意味:ある意味、立派なものだと思います/ある意味で困難だ
・受け身形:思われる/思わされる/考えられる/見られる/見受けられる
こうした言葉は、使い勝手がよく、文章を書き慣れている人でも意味なく使ってしまいがちな要注意ワードです。
「ボカシ言葉」を使うと、その名の通り、何が言いたいのかボンヤリした文章になっていきます。いってみれば「味」が薄くなるのです。
文章の薄味化を避けるには、断定できるところを、意識的に断定表現に変えていくしかありません。その積み重ねによって、メッセージが明確に伝わる「濃い味の文章」ができるのです。
電話では「弊社のほうでは、お引き取りいたしかねます」と言ったりします。でも、文章では、「弊社では、お引き取りできません」と書けば確実に伝わるし、読み手にとっても親切です。
もっとも、「ボカシ言葉」を絶対に使ってはいけないというわけではありません(←たとえば、この「という」は不要)。
使うなら「この言葉を使わなければ意味が伝わらない」「使わなければ語調がヘンになる」といったケースでなければならない。
つまり、「必然性があるときに使いましょう」ということです(←この「という」はOK)。