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「小中学生の全国大会は子供を不幸にする」 “勝利至上主義”という麻薬

PRESIDENT Online

子供を思いやる尊い気持ちを十分に汲みつつ、それでもなお指摘したいのは、たとえ短期的には不利益がもたらされるとしても、将来を見越した長期的な視野で恩恵にあずかるかどうかを想像する必要性である。「勝利から得られるもの」と「勝利への固執で失われるもの」とを天秤にかけ、冷静に吟味する態度が成熟した大人には求められる。教育を目的とした若年層のスポーツを考えるときに、この構えは決して欠かすことはできない。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CasarsaGuru
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CasarsaGuru

小中学生の全国大会は「不幸せな子供を生むシステム」

先の益子氏も含め、このたびの全柔連の決定を肯定的に捉える元トップアスリートや指導者は多い。

全柔連会長の山下泰裕氏は、児童が健全に発達していくのに「目先の勝利にこだわる必要はない」という。元陸上選手の為末大氏も「目先の勝ちを拾おうとする誘惑」には抗い難く、それを鑑みれば「中学生までは全国大会はいらないのでは」と提議している。「トータルでみると、若年層での全国大会は多くの子供を幸せにしないシステム」だとも感じているという。

両者ともに児童の健全な発達やその後の幸せな人生に「目先の勝利」は寄与しないと考えている。

さらに為末氏は、「陸上では、中学チャンピオンが五輪に出るのはきわめてまれ」だという現実から、「目先の勝利」がハイパフォーマンスにはつながらない点も指摘している。

これはラグビーでも同じである。コンタクトがともなうその競技性から、中学時代はからだの発育が早い早熟傾向の子供がその体格差を利用して活躍することが多い。まるで一人だけ大人のように突出したプレーをする選手を「超中学級」と呼んだりするが、彼らが卒業後も順調に成長を続けて日本代表になるケースはほぼない。まったくないわけではないが、ごく少数だ。ここから考えれば、発育の差がプレーの優劣や試合の勝敗を大きく左右する年代での競い合いにはあまり意義を持たせないほうがいいと思われる。

スペインのサッカー界では18歳以下の全国大会を実施せず、23歳以下を育成年代として長期的な視野からの育成を目指している。そのスペインで、リーガ・エスパニョーラのトップチームの監督に日本人および女性で初めて就任した佐伯夕利子氏は、現在所属するビジャレアルで2014年から指導改革を行ってきた。クラブを出たあとの人生を最優先に考え、競技力の向上よりも人としての成長を促す指導に切り替えたのだが、驚くことにプロ選手になる割合は改革前と比べて変わらなかったという。

大会の廃止で「弱くなる」と嘆く人たちが見落としているもの

全国大会の廃止に異論を唱える人たちは「子供が弱くなる」「有能な人材が育たなくなる」と主張する。この主張の根底には、競争がもたらす厳しさを通じなければ子供は育たないという考え方がある。

だが、その道を極めた人もしくは真摯(しんし)に子供と向き合う指導者は必ずしもそうは考えていない。勝利の競い合いとは別のところに若年層におけるスポーツの価値を見いだしている。それに重きを置けば健全な発達を促し、競技を継続する動機を支え、さらには結果的にハイパフォーマンスにもつながるという、いささかのんきともいえる考え方を持ち合わせている。

勝利の匙加減を狂わせてスポーツの価値を見失ってはいけない

勝利の追求は否定しない。だが勝利より大切なものがある。

おそらくここが、勝利至上主義の弊害を理解する上でわかりづらいところだろう。ならば競争は不要なのかとつい反論したくなる人もいるだろうが、むろん、そうではない。競争が不要なわけではないし、もしそうなら勝敗の競い合いを原理とするスポーツの存在価値は無に帰す。

競争は必要である。スポーツからそれを取り去ることはできない。競技に優劣をつけ、勝者を礼賛するシステムは尊重されなければならない。だが、その「程度」には細心の注意を払う必要がある。匙加減をどうするかが問題なのである。


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