「カプ呑み」つながる仲間意識
「寂しい気持ちはありますが、数十のカプセルは取り外され、黒川紀章建築都市設計事務所監修のもとに50年前の仕様に再生されます」。元所有者で構成する「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」代表の前田達之さんは、ビル解体後のカプセルの扱いについてこう語る。
前田さんは2010年に「内部をどうしても見たい」と一室を400万円で購入。その後、カプセル全体の約1割にあたる15室を所有するに至った。
14年には同プロジェクトを立ち上げ、有志とともに解体の回避とビルの保存に取り組んできた。建物は区分所有で、建て替えや修繕などの方針は管理組合の多数決で決まる。このため、保存派が議決権を多く所有することでカプセルを交換できると考えたのだ。
その熱意を後押ししたのは、宇宙船のような近未来的デザインの傑作を残したいという思いと、住人同士の仲間意識だった。年齢も職業も異なるメンバーが、この建物が好きだというだけで打ち解け、毎晩どこかの部屋では「カプ呑み(カプセル呑み会)」と呼ばれる飲み会やイベントが行われていた。
こうしたコミュニティーから写真集や書籍が生まれ、内装を個性豊かにデザインしたカプセルの様子が同好の士だけでなく世間にも知られるようになった。元々、外国人観光客が多い銀座という立地条件もあって国外からの注目度は高かったが、近年はさらに、動画投稿サイトYouTubeなどのメディアを通じ、ファンは海外にも広がっていたという。
今後、一部のカプセルは補修され、ビル竣工当時の姿に戻した状態で国内外の美術館や博物館に寄贈される予定だ。『泊まれるカプセル』の運営も計画されているといい、前田さんは、こう力を込める。「それぞれのカプセルが泊まれるアート作品として、今後も多くのファンを育んでいくことを望んでいます」
場所やその用途は変わっても、レトロフューチャーを閉じ込めたカプセルは、これからも多くの人を魅了していくに違いない。(SankeiBiz編集部 野間健利)