「悪い円安」がマスコミで大ブームだ。「悪い円安」は、“物価高につながり庶民の生活を圧迫する“、”日本の構造的な停滞の真因である“、あるいは“アベノミクスの弊害だ”、などとテレビや新聞でこの種の報道が盛んである。最近では、米国と日本の政策当局が、円安を是正するために協調介入すべきだ、いやもう両国で介入することで話がついているなどとも報道されている。まさに奇妙な経済論が大手を振っているわけである。なぜ奇妙なのだろうか?
自虐史観の経済版?
例えばテレビ朝日のモーニングショーでは、同社社員の玉川徹氏がこの奇妙な経済論を語っていた。玉川氏の発言は、同番組に出演した榊原英資氏(青山学院大学特別招聘教授)との対話の中で出てきたものだ。ふたりのやりとりは概要、以下のようなものだ。
榊原氏「日本は成熟しているので成長できない」
玉川氏「ヨーロッパも成熟しているけど成長している。なぜ日本は成長できないのか?」
榊原氏「精査していないので分からない」
精査せずとも、日本で生活している人たちのお金が不足しているのが原因なのは自明だ。ここでもがっくりきたのだが、それ以上に驚いたのが次の玉川氏の断言だった。
玉川氏「円安で大企業が楽になったから甘えて革新的製品が出なくなった」
円安で大企業が楽をしていて、それで日本が成長できなかった、というのだろう。これは事実に基づかない。
図は今世紀になってからの為替レートと実質経済成長率を描いたものだ。円高局面は、2008年から始まり2012年までで、円安期はそれ以外である。単純に計算すると、円高期の平均成長率はマイナス0.28%、円安期は、2001年から07年までの前半は、1.26%で、後半の13年から21年までは0.43%である。玉川氏の主張とは異なり、円高局面の方が日本経済の成長率は大きく落ち込んでいる。
いずれにせよ、玉川氏の「悪い円安」は、根拠の乏しい日本敗退論につながっているのだろう。自虐史観の経済版かもしれない。