サンヨー食品の「サッポロ一番」は、発売から50年以上たった今も、袋麺市場で首位を守り続けている。特に人気があるのは「みそラーメン」と「塩らーめん」。なぜこの2つの味は愛され続けているのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏がリポートする――。
コロナ禍に売り上げが大きく伸びた「袋麺」
「コロナ前はそれほど食べなかったけど、在宅勤務が多くなり、食べる機会も増えました」
40代の男性会社員は、インスタントラーメンについてこう話した。
長引くコロナ禍と在宅勤務で、外食機会が減り、自宅で昼食をとる回数が増えた人も多いだろう。簡単にすませたい時に便利なのが、インスタントラーメン(即席麺)だ。
ご存じのように、即席麺は「カップ麺」と「袋麺」が2大勢力となっている。
業界団体の日本即席食品工業協会の発表データでは「カップ麺=39億2238万食(構成比66%):袋麺=18億6451万食(同31%):生タイプ1億8832万食(同3%)」(2020年度、同協会調べ)となっている。生産量では、カップ麺が袋麺の2倍以上あるのだ。
ただし、最初に巣ごもり需要となった2020年度(1月~12月)は、カップ麺よりも袋麺が大きく伸びた。同年度の袋麺は小売額ベースで前年比20.0%増、数量ベースで17.4%増となった。ちなみにカップ麺は、出荷額ベースで2.6%増だった。
※数字はいずれも「日本即席食品工業協会」調べ。表記は発表時
なぜ、消費者は袋麺を好んだのだろう。そこで今回は、袋麺で長年首位の「サッポロ一番」(サンヨー食品)に焦点を当て、人気の秘密を探ってみた。
新たな袋麺の味わい方が消費者に浸透している
「現在、袋麺全体の数字は安定しており、2020年のような伸びはありませんが、2019年まで微減傾向だった数字が回復しています」
「サッポロ一番」のマーケティングを担当する川井理江さん(サンヨー食品 マーケティング本部 マーケティング部 第二課 課長)は、袋麺市場全体をこう説明する。
「その中で、2021年の『サッポロ一番』は一昨年の伸びを維持する前年並みで健闘いたしました。理由は“7つのサッポロ一番”と呼ぶ定番商品が手堅かったことと、アレンジレシピや汁なしで味わうといった新たな提案が、お客さまに受け入れられたと考えています。
また、公式ツイッターやインスタグラムでも情報発信していますが、料理研究家や声優の方など、ブランドのファンを公言する方も、折に触れて発信してくださいます」
川井さんが話した「7つのサッポロ一番」とは、(1)「サッポロ一番(しょうゆ味)」(2)「みそラーメン」(3)「塩らーめん」のほか、(4)「ごま味ラーメン」(5)「塩とんこつらーめん」(6)「みそラーメン 旨辛」(7)「ソースやきそば」をいう(画像参照)。
多くの人が一度は食べたことがあるのが、(1)~(3)の「サッポロ一番(しょうゆ味)」「サッポロ一番 みそラーメン」「サッポロ一番 塩らーめん」だ。
半世紀にわたり「袋麺で首位」を譲らないワケ
「『サッポロ一番』ブランドの発売は1966(昭和41)年で、『サッポロ一番(しょうゆ味)』が最初でした。2年後の1968年に『サッポロ一番 みそラーメン』が、1971年に『サッポロ一番 塩らーめん』が発売されました。この3品が出そろった1972年から半世紀にわたり、袋麺ではほぼ首位を維持しています」
昭和、平成、令和と時代が変わっても、袋麺の首位ブランドに君臨し続けているのだ。
でもマーケティングの世界では「消費者はどんどん変化する」のが共通認識のはず。なぜ半世紀もの間、人気が続くのだろうか。
「『サッポロ一番』に関しては、舌と一緒に記憶も受け継がれていく、と思います。消費者調査では、『小さい頃、お母さんが作ってくれた』『土曜日だけはお父さんが作った』『お父さんが調理できる数少ない料理だった』という声も目立ちます。慣れ親しんだ味なので、実家を出て1人暮らしとなってからも作る人が多いようです」
在宅時間が増え、簡単な料理を作り始めた人も多い。「久しぶりに何かを作ろうとした方に『サッポロ一番』は選ばれやすい」とも聞く。これも「舌」と「記憶」なのだろう。
お湯を注げば勝手に調理してくれるカップ麺ではなく、調理が必要な袋麺を選ぶのは、「自分なりにアレンジをして仕上げる、ちょっとした達成感」ともいえる。