社員が歩いた分を会社の「脱炭素」算定に活用 CUVEYESのアプリ「SPOBY 脱炭素ウォーク」法人展開本格化

    スタートアップ企業のCUVEYES(キューヴアイズ)は今月、スマートフォン所有者の移動手段を検知して二酸化炭素(CO2)排出抑制量をスコア化することでCO2排出削減を支援するアプリ「SPOBY(スポビー) 脱炭素ウォーク」の提供を本格的に開始した。脱炭素と健康増進に前向きな企業と自治体に活用してもらいたい考えだ。東京・臨海副都心エリアで「豊洲スマートシティ推進協議会」を主導する清水建設(東京)と、自動車用ホース大手のニチリン(兵庫)が先行導入。脱炭素社会に向けた新たな取り組みとして注目されそうだ。

    脱炭素と健康増進を支援するアプリ「SPOBY 脱炭素ウォーク」
    脱炭素と健康増進を支援するアプリ「SPOBY 脱炭素ウォーク」

    歩いて脱炭素、成果を可視化

    「SPOBY 脱炭素ウォーク」は、アプリをインストールしたスマホを持っていると、所有者の移動手段を自動で判別。乗り物を利用しなければならない移動距離を歩いたり、自転車で移動したりした場合に、CO2の排出抑制量を独自のアルゴリズムで数値化する仕組みだ。

    単純に移動距離から数値化するだけではなく、出勤せずにリモートワークで働いたときもCO2排出削減に貢献をしたと判定する機能もあり、実態に合った成果がアプリで可視化される。スポンサーの店舗から報酬として「コーヒー1杯無料」などのクーポンが贈られることもあるという。

    「短距離の移動は歩きや自転車に置き換えられると考えたことがきっかけだった」。開発の経緯について、CUVEYES代表取締役の夏目恭行氏は21日のオンライン会見でこう明かした。

    2015年度の道路交通センサス(全国道路・街路交通情勢調査)によると、国内の車両は5キロメートル未満の移動に使われる場合が約4割を占める。乗用車の使い方では2005年と2010年の調査でも同じような傾向が見られ、5キロメートル未満でも車を使うという移動方法は日本人の暮らしに根付いていると言える。

    一方、国土交通省によれば2019年度のCO2総排出量は11億800万トン。自動車などの運輸部門の排出量は産業部門に次いで2番目に多い2億600万トンで、そのうち自家用車が排出したのは45.9%にあたる9458万トンだった。割合の高い短距離移動にメスを入れることで、効率的に脱炭素社会の実現が近づく可能性が高い。

    こうして生まれたSPOBYは2020年9月から一部の企業と自治体向けに提供され、ユーザー継続率73%、1日あたりの平均歩数が1000歩増えるなどの高い実績(同社調べ)を残した。

    法人の「何をすれば」に応える

    CUVEYESは今後、脱炭素に前向きな企業や自治体に「SPOBY 脱炭素ウォーク」の導入を促していくといい、すでに複数の団体から問い合わせが寄せられている。

    注目を集めた背景には「ゼロカーボンシティ宣言をしてもアクションプランがない自治体が多い」(夏目氏)という現状がある。また、コミットしたCO2削減目標をどうやって達成するか悩む企業に対しても、「サプライチェーン排出量」の考え方に基づき的を絞った方針を示したことも要因のようだ。

    サプライチェーン排出量とは、製造にかかわる部分だけではなく、使用した電気や原材料の輸送費、購入者による製品の使用と廃棄に至るまで、事業活動すべてに関係する温室効果ガスの排出量を指す。その内訳は、自社活動で直接排出した分(スコープ1)、他社から提供された電気などで間接的に排出した分(スコープ2)、スコープ1と2以外の間接排出の分(スコープ3)に分類される。

    スコープ1と2は事業計画や他社との兼ね合いなどの事情もあって排出量をコントロールしにくい。スコープ3も間接排出のためコントロールが難しいが、15のカテゴリのうち「6 出張」と「7 雇用者の通勤」はほとんどの従業員が取り組める課題だ。そこで「SPOBY 脱炭素ウォーク」を「スコープ3のカテゴリ6、7を解決できるアプリ」と位置づけ、脱炭素に取り組む姿勢を示せるだけでなく、貢献した従業員たちの頑張りがサプライチェーン排出量の算定に活用されるとしたのだ。

    SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラル(CO2の排出量が実質ゼロ)といった環境に関する言葉が広がっているが、実際に何をすればいいか分からない企業は少なくない。悩める企業に「はじめの一歩」を踏み出す機会を示した点でも、「SPOBY 脱炭素ウォーク」が果たした役割は大きいだろう。

    健康増進と経済活性化にも寄与

    脱炭素と並んでCUVEYESが力を入れるのが健康増進だ。東京都江東区の豊洲1~6丁目で、ICT(情報通信技術)を活用しながら社会課題の解決を図る「スマートシティ」化に取り組む清水建設の谷口精寛氏は、「SPOBY 脱炭素ウォーク」を先行導入した理由について「スマートシティを進めていく上では、住民の方に『小さな成功』をしっかり伝えていくことが重要。SPOBYはユーザーインターフェースが分かりやすく、ヘルスケアの分野で住民の方に受け入れてもらいやすい」と話す。住民たちが「SPOBY 脱炭素ウォーク」を使用したデータを分析し、他の都市のスマートシティ化に役立てる考えもあるという。

    「国内のほか海外8カ国でオペレーションを回すには少数精鋭ではなく『全員精鋭』であることが必要で、そのためには社員が健康でなければいけない。2017年から健康経営を推進して成果を挙げたが、コロナ禍で社員の外出機会が減少してリバウンドが起き、飽きずに続けられる健康増進ソリューションが求められていた」

    清水建設と同様に先行導入したニチリンの人事総務部の稗田清志氏はこう評する。脱炭素に一人ひとりが関わっていくという啓発にもつながると期待しているという。

    CUVEYESの夏目氏は、「SPOBY 脱炭素ウォーク」を使った健康増進の取り組みが経済にも良い影響を与えると見込む。同社は国交省の「まちづくりにおける健康増進効果を把握するための歩行量(歩数)調査のガイドライン」をもとに、新型コロナウイルス対策で緊急事態宣言が発令された2020年4~5月は平均歩行量が前年から1269歩減少したと指摘。年間医療費が3万3349円増えた可能性があると推計した。

    習慣的に歩いて健康を維持することで、高齢化社会で懸念される医療費の増大に歯止めをかけたい考えだが、生活圏内にある商店街を訪れる機会が増え、「SPOBY 脱炭素ウォーク」が発行するクーポンなどで地域経済の活性化にもつなげたいという。

    夏目氏は「社会課題はまだあるが、人の移動が解決の糸口になることは共通している。知財戦略を展開し、SPOBYで脱炭素にイノベーションを起こしたい」と展望を語った。

    脱炭素社会に向けた取り組みが重要度を増す中、CUVEYESは「SPOBY 脱炭素ウォーク」の輪を広げることで、環境だけでなく健康や地域経済の社会課題についても解決の糸口を探ろうとしている。

    (提供:株式会社CUVEYES)


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