西成シイタケから大阪サーモンまで 目指すは「シン・天下の台所」

    2025年大阪・関西万博を見据え、大阪府が「大阪産(もん)」と呼ばれる府内産の農水産物をデータベース化し、一般に公開するための準備に着手した。万博の来場者に府内で食事を楽しんでもらい、大阪産をアピールする狙い。新型コロナウイルス禍で疲弊する外食産業の関係者も万博出展を決めており、食い倒れの街は、生産・加工業者も含めた「食の都」に進化できるか。

    納豆やサーモンなど大阪産(おおさかもん)を使った料理=大阪市中央区の「大阪産料理 空」(前川純一郎撮影)
    納豆やサーモンなど大阪産(おおさかもん)を使った料理=大阪市中央区の「大阪産料理 空」(前川純一郎撮影)

    全国認知度は26・2%

    甘めの味つけと爽やかな香りがクセになるシイタケの山椒(さんしょう)煮のほか、ごま油ベースの塩だれにつけるわら包みの納豆、肉厚なサーモンの刺し身がテーブルに並ぶ。

    大阪市中央区の「大阪産料理 空(そら) 船場女将小路(おかみこうじ)店」。店名の通り、食材は全て大阪のもの。シイタケは大阪市西成区、納豆は大東市で生産・製造され、刺し身は、岬町で養殖し3月にデビューした「大阪産サーモン」だ。

    都心のイメージが強い大阪だが、北摂や河内などの山間部から大阪湾まで農水産物の生育に適したエリアが広がる。

    収穫量日本一の春菊(菊菜)は柔らかく苦みが少ない。江戸初期には栽培されていたと伝わる「泉州水なす」はみずみずしさが特徴。梅の実を肥料とし、上品な脂が人気の「大阪ウメビーフ」のほか、泉州地域で水揚げされ、令和元年の20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)で提供された「泉だこ」も有名だ。

    府は平成21年度から、こうした農水産物を扱う生産・加工業者や飲食店を大阪産としてロゴマーク認証する事業をスタート。昨年末時点で延べ951件の登録があった。

    ただ農協や漁協を中心に安定した供給網を備え、ブランド力も高い地方に比べ、大阪の農業出荷額は全国46位。府の昨年3月の調査で、大阪産の認知度は府内こそ58・7%に上るが、全国では26・2%にとどまる。

    店と生産者のマッチング

    開幕まで3年を切った大阪万博では世界から多数の訪日外国人客が見込まれ、ローカルからグローバルな食材に飛躍する商機でもある。冒頭の「空」など府内外で飲食店7店舗を展開するオーナーの今井豊さん(58)は「大阪は生産者に個の力がある」と語り、府も個別の生産者に焦点を当てたデータベース作成に着手した。

    データベースは、農水産物の特徴や収穫される地域の歴史に加え、農家や漁業関係者、販売事業者から聞き取ったこだわりを府のホームページ上で一般ユーザー向けに公開する。これとは別に閲覧対象者を飲食店に限定したページでは、個別の生産者について食材の供給時期や仕入れの条件、問い合わせ先などを記載することを想定している。

    データベースを通じて、大阪産に関心があっても生産者とのパイプを持たない飲食店と、収穫・加工した商品の売り込みに苦戦する生産者をマッチングさせる狙いだ。

    今年2月に大阪産ロゴマークを使用する生産者や団体を対象に掲載希望を募ったところ、118商品が選ばれた。府は4月22日に加工品の販売業者にも対象を広げ、150商品までの上積みを目指している。府の担当者は「万博を契機に来場者に大阪産の魅力を知ってもらう機会を作り出したい」と意気込む。

    海外デビューに期待

    コロナ禍で深刻な打撃を受けている飲食業界の期待も高い。ドバイ万博(3月閉幕)に出店した回転ずしチェーン「スシロー」は、日本で110円からとしている一皿の価格を現地で約270円以上に設定。割高にもかかわらず店舗には連日行列ができた。

    大阪万博は食をテーマの一つとしている。万博への出展が内定した一般社団法人「大阪外食産業協会」の担当者は「万博を起爆剤として、コロナ禍で大変な思いをした飲食店を元気にしたい」と語る。同協会は、コロナ禍に伴い昨年中止となった4年に1度の「食博」を万博会場で開催すべく準備している。

    万博では、放送作家の小山薫堂(くんどう)さんがプロデューサーとなり、日本の食文化を考えるパビリオンを手がける。小山さんは4月18日の構想発表会で「大阪イコール、『食の都』のイメージが醸成されることがレガシー(遺産)の一つになる」と語った。

    大阪府の吉村洋文知事は同月27日の記者会見で「大阪産は素晴らしい食材があるが、まだ知られていない部分がある。世界の人に知ってもらえれば世界と十分勝負できる」と強調した。

    今井さんは「食の都を名乗るには、地元の食材を広く知ってもらわなくてはならない」として、農家や漁師らから仕入れる飲食店が在庫を抱えるなど一定のリスクを背負う必要があると指摘する。「万博に向けて大阪産に飛びつく事業者は多いが、一過性のブームで終わらせてはいけない」

    府によると、データベースの完成は来年3月の見込みという。大阪産の食材が海外デビューする日が現実に来るかもしれない。そう思うとワクワクする。(尾崎豪一)


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