東京の私鉄、東急電鉄が昭和30年代から運行し、「銀色の電車」として名をはせたオールステンレス車両「7000系」。さびにくく、強度のある車体が特徴で、東急が日本で初めて導入した。その伝説の車両は大阪府貝塚市を走る水間鉄道に引き継がれ、7000系を改造した「1000形」は今も現役。7000系車両が保管されている水間観音駅は鉄道ファンの聖地となっている。
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東京から来た
水間鉄道は水間寺(同市)の参詣客の交通手段として、大正14年に営業を開始。貝塚-水間観音の10駅5・5キロを結び、「水鉄(すいてつ)」の愛称で親しまれている。
今年4月中旬、水間観音駅で開催された「水間鉄道まつり」。春の陽気のなか、多くの人が熱心に撮影していたのが、倉庫に保管された2両の7000系車両だ。「〝東京の電車〟が近所にあるなんて不思議」。同府熊取町の男性会社員(37)は話す。
「7000系がはるばる貝塚まで運ばれてきたのは32年前です」と、車両の整備を手がける佐伯工業(同府岬町)の田端昌文さん(55)が説明した。
さびにくく強い
オールステンレス車両は、車体の表面や骨組みなど主要部材をすべてステンレス鋼で製造。ステンレスは鉄鋼やアルミに比べ、さびにくく強いうえ、薄くすることで車体を軽量化できる。半面、材料費が高く加工しにくい。
研究を重ねた米バッド社が製品化したのは1930年代。国内では東急がバッド社と技術提携し、昭和37年、国内初のオールステンレス車両7000系の運行を始めた。関西でも、南海電気鉄道などでオールステンレス車両が導入された。
東急7000系は63年からの車両更新で、弘南鉄道(青森県平川市)、北陸鉄道(金沢市)など各地のローカル線に譲渡された。水鉄にも10両が引き渡され、運行を始めたのが平成2年。このうち8両は19年、自動列車停止装置(ATS)や冷房を設置して1000形に改造され、現役で走っている。
一方、車両番号「7003」と「7103」の2両は、譲渡された当時のまま倉庫に保管されている。
車内は当時のまま
7000系は銀色に輝く車体が目を引く。表面に施された波状の「コルゲーション」も特徴的。水鉄の元鉄道部長、谷本憲隆さん(65)は「ステンレスは腐食しないので塗装の必要がない。傷みが少ないおかげで、補修なくずっと使えている」と語る。
台車も見どころ。車輪を挟み込むブレーキディスクが外側に設置されており、現在の鉄道車両では珍しいという。
内部をのぞくと天井の扇風機から「昭和レトロ」の雰囲気が漂う。1000形のつり革には「東急百貨店」「109」など東京・渋谷の商業施設の広告が付いたまま。谷本さんは「東京を懐かしがり、『このままにしてほしい』というお客さんが多いので換えていない」と話す。
水鉄はバブル崩壊と利用客減少で経営危機に見舞われ、17年に会社更生法の適用を申請。外食企業、グルメ杵屋の支援で再スタートを切った。現在は、オリジナルの写真やイラストを一般から募って車両のヘッドマークに10日間装着するなど、ユニークな取り組みで注目を集める。
また水鉄などを舞台にしたドラマ「アワーホーム」が昨年夏に撮影された。松平健さん演じる老いた元駅長が、7000系への秘めた思いを語るシーンは涙を誘う。ドラマはユーチューブで公開中だ。
水間鉄道まつりを訪れていた近くに住む30代の女性は「4歳の長男もここに引っ越して電車が好きになった」と話す。東京から大阪へ。多くの人に愛された7000系の雄姿は世代を超えて語り継がれている。(牛島要平)
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