三井化学は4月29日と30日、幕張メッセ(千葉市美浜区)で行われたサブカルチャーのイベント「ニコニコ超会議2022」に出展し、医療分野で活用されているプラスチック製の眼球や入れ歯を展示した。プラスチックの技術を生かすことで医療の現場を支えるだけでなく、“超高齢化社会”における職人不足問題にも貢献できるとしている。
メスで切る感触まで模倣
アニメや漫画のキャラクターの衣装を着たコスプレイヤーたちが、成人男性のマネキンに近づいて驚きの声を上げる。顔と胸の部分に、本物そっくりの眼球と心臓の模型が埋め込まれていたからだ。
眼球の模型は今にも動き出しそうなほどにリアルだが、なんと素材はプラスチック。医学生の実習や研修医のトレーニングで使われているものだという。
同社の担当者はこう説明する。
「これまでの手技練習では豚の眼球が用いられていましたが衛生面の課題や、メスで切るときの感触が人の眼と違うといった問題点がありました。複合素材を使ったプラスチック製の眼球は衛生的で、切ったときの感触を本物に似せています」
プラスチック製の心臓の模型も実際の臓器と同じ触感なので、手術のシミュレーションに使用することができる。心臓に限らず他の臓器を作ることも可能だ。
入れ歯の作業時間&コスト削減
実習で活躍する眼球と心臓の模型とは違い、マネキンに埋め込まれていた入れ歯は患者が実際に使えるものだという。薬事認証を取得した材料のレジン(樹脂)インクを同社が販売し、歯科医が3Dプリンタで患者に合った入れ歯を作るという流れだ。
耐久性は従来のものと変わらないが、作業時間を大幅に短縮できて、コストは最大4分の1に抑えられる。患者にとってはそれだけでもありがたいが、担当者は「入れ歯を作る歯科技工士の減少に備える」という狙いがあると話す。
厚生労働省の調査によると2020年に就業している歯科技工士は3万4826人。2010年からの10年間は3万5000人前後で推移しているが、若年層の参入が減少して高齢化が進んでいることから、将来的には大幅な減少が懸念されている。“超高齢化”に向かう社会で、入れ歯を作れる職人が不足することも起きうる。
そこでレジンインクと3Dプリンタの導入が、歯科技工士の人手不足問題の対策になると期待されているわけだ。また、入れ歯を作るために通院する回数が最低5回から3回程度にまで減ることで、高齢者自身の身体の負担や、付き添う家族たちの負担が軽減される効果も見込まれる。
ネット世代の若者が同社の展示物を真剣に眺めているのを見て、担当者は「環境問題で“悪者”にされがちなプラスチックだが、身近なところで活躍していることを若い世代に知ってもらえれば」と期待を寄せていた。
三井化学が展示したプラスチック製の眼球や入れ歯=30日、千葉市美浜区の幕張メッセ