若い世代のクラシックファンを増やそうと、九州交響楽団が乳幼児が一緒の家族や妊婦が楽しめる新企画「0歳からのオーケストラ」を開いた。交響楽団のコンサートの多くは未就学児が入場できず、0歳から入場可能という異例のイベントに、多くの親子が訪れた。クラシックは敷居が高いというイメージから、交響楽団の演奏会は若い世代の来場が少ないのが課題となっており、九響はさまざまな企画で若年層の開拓に取り組んでいる。
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モーツァルトの交響曲やチャイコフスキーのバレエ組曲。今月3日、福岡市中央区のアクロス福岡で開かれた演奏会では、本格的なオーケストラを乳幼児らも鑑賞した。泣いたり動き回ったりする子供もいたが、子供に生の音楽を聴かせたいと望む親は多く、11カ月の長男と夫と訪れた山口県宇部市の井上志歩子さん(31)は「子供と一緒に演奏会に行きたかった。本物の音楽に触れる良い機会になった」と喜んでいた。
九響は、これまで親子向けとして3歳以上の子供が入れる演奏会を企画したことはあるが、対象を0歳からとしたのは初めて。妊娠や出産を機に音楽に興味を持つ若い世代へのアプローチで、演奏中も出入りは自由とし、おむつ交換台や授乳スペースも設けた。通常設ける会員席はなく、チケットはゼロからの販売となったが、九響は産婦人科にポスターを掲示するなど周知活動を行い、同日の2公演は計約1千席が満席となった。
九響で広報を担当するリシェツキ多幸(たゆき)さん(43)も5歳の双子の母親で、「静かにすることが求められるオーケストラの性質上、子供を連れて行きにくく、ストレスなく来場できる環境づくりに工夫した。子供の成長とともに九響の音楽に親しんでほしい」と話した。リシェツキさんの発案で、演奏会では母子健康手帳を持つ母親を対象に、コンサートをCDにしてプレゼントする特典が付いたマタニティチケットも販売された。
取り組みの背景には九響の危機感がある。九響は依頼公演も含めて年間約130公演を開いているが、とりわけ九響主催の演奏会では来場者の多くが高齢世代で、コンサート会員の平均年齢は定期演奏会で66歳、「天神でクラシック」や「名曲・午後のオーケストラ」では70歳という。
子供向けのコンサートは将来のファンを増やすためにも重要だ。しかし近年はコロナ禍の影響で子供たちに生の演奏を届ける機会も激減しているという。
九響は昭和28年に設立され、来年で創立から70年を迎える。九州を代表するプロのオーケストラとして若者のクラシック離れという難題に挑み、楽団としての成長を目指している。(一居真由子)