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「ロシアは34歳以下が人口の43%を占める若い国」当局が抱える“若者がウソを暴く”というリスク

PRESIDENT Online

「私たちはプーチンの辞職を求めます」

極めつけはレオニード・イワショフ退役大将である。彼は現役時代、総参謀本部で旧ソ連諸国との連絡などを務め、ものすごく切れる戦略家だった。しかし、その極右的な言動が災いしてか2001年には国防省から体よく追い出され、共産党(ソ連崩壊後は反プーチンの野党)とともに、プーチンの辞任を求める将校の団体を立ち上げている。団体はその後、「全ロシア将校集会」と名乗り、イワショフはその議長を務める。2月初め、まだ戦争は始まらず、ロシア軍が国境に集結していた時点で、次の趣旨の公開書簡がイワショフ名で「集会」のサイトに掲載された。

「この戦争は、プーチンとそれを囲む公安・石油関係者の狭いサークルが、自分たちの地位と権益を守るためだけにしかけるものです。ロシアは世界での居場所を失い、悪くすると国家が消滅してしまうことになるでしょう。私たちはプーチンの辞職を求めます」

「プロパガンダ信じないで」テレビ番組で掲げた女性

これを別のサイトで目にした僕は最初驚いた。イワショフはすぐ、「これは自分の書いたものではない。言っていることも文体も違う」と言って関与をいちおう否定した。イワショフがその後、当局に摘発されたという話は聞かない。この書簡を「集会」のサイトに見つけることはできなかったが、いろいろなサイトではまだ平然と引用されていた。

3月14日には当局きってのプロパガンダ・マシン、第一チャンネル・テレビ、夜のプライム・タイムのニュースで、騒ぎがあった。ウクライナでの「特殊軍事作戦」を報道するアナウンサーの背後に、プラカードを掲げる若い女性がいきなり立ったのだ。

「戦争やめて! プロパガンダ信じないで。みんな、ウソ言われてんのよ」

女性は番組スタッフの一人でウクライナ生まれ、父親がウクライナ人だという。彼女はすぐ当局に拘束されたが、スタジオの仲間の支持がなければこんなことはできなかっただろう。第一チャンネルの報道局では、1991年8月クーデターの時、僕の友人だった故ラトネル次長もクーデター一味を暗にあざ笑うニュースを流して、流れを変えたことがある。

ニュースを見るのは老年層、若い世代はSNSをチェックする

第一チャンネルのニュースを見ているのは主に老年層。若い世代はSNSで情報をチェックする。そして老年層(と言っても、1991年のソ連崩壊前後はまだ若く、「民主化」を叫んでいたはずなのだが)は保守的で、このニュースを見ていても若者の「いたずら」に怒っただけだろう。その後CNNのサンクト・ペテルブルク街頭からのルポを見ていたら、きちんとした身なりの老女が言っていた。「プーチンを支持しているかですって? もちろん。100%、いえ200%」。

本気ではないかもしれないが、こういう保守層もまた、ロシアには多い。ソ連が崩壊した前後にも、こういう体制派の老女はいたものだ。幹部として特権層用の特別マンションに住んでいる連中。特権を自分の権利だと勘違いして、死守しようとする者たちだ。許せない。

戦争が起きて以来、ロシアのいろいろな都市では週末、反戦デモが行われている。3月6日だけでも全国で4300名余が拘束されている。僕は革命前夜を想定した。でも、現地にいた人の話では、小規模で、何をやっているのかわからないデモだったということだ。3月末にはデモは下火になった。

当局のウソがばれ、生活が苦しくなると、ロシアの大衆は怖い

しかし、ロシアは平均寿命が短くて、老年世代が少ない。34歳以下の若年人口が全体の43%を占める「若い国」だ。若い世代が老年世代のウソをあばいて、戦争の犠牲になることを拒否する。こうなったら、当局も手を焼くことだろう。当局のウソがばれ、しかも生活が苦しくなってくると、ロシアの大衆は怖い。

こういう時西側が気をつけないといけないのは、西側、特にアメリカが前面にしゃしゃり出てくると、ロシア国民は一丸となってプーチンと、その戦争を支持するだろうということだ。ロシア人はアメリカが好きだが、アメリカ人たちに「何々をこうしろ」と言われるとむきになって反発する。制裁で物価が上がっているのも、アメリカのせいだと思っているだろう。加えてアメリカ兵がウクライナに現れたら怒りに火がつく。だから、バイデン大統領が「ウクライナに米軍を送ることはしない」と言っているのは、賢明なことなのだ。

河東 哲夫(かわとう・あきお)

外交評論家、作家

1947年、東京生まれ。東京大学教養学部卒業後、1970年、外務省入省。ソ連・ロシアには4度駐在し、12年間を過ごしてきた。東欧課長、ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を歴任。ハーバード大学、モスクワ大学に留学。2004年、外務省退官。日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員を経て、評論活動を始める。東京大学客員教授、早稲田大学客員教授、東京財団上席研究員など歴任。著書に、『遙かなる大地』(熊野洋の筆名によるロシア語小説、日本語版、草思社)、『意味の解体する世界へ』『新・外交官の仕事』『ワルの外交』『米・中・ロシア虚像に怯えるな』(いずれも草思社)、『改訂版 ロシアにかける橋』(かまくら春秋社)、『ロシア皆伝』(イースト新書)、『よくわかる大使館』(PHP 研究所)他。

(外交評論家、作家 河東 哲夫)


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