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アニメ業界が激務薄給になった「元凶」と批判も…『鉄腕アトム』を激安で作った手塚治虫の誤算

PRESIDENT Online

テレビアニメ『鉄腕アトム』(1963年~)は日本アニメの原点と高く評価されている。その一方で、あまりに制作費が安かったので、劣悪な労働環境を招いた元凶との批判もある。アニメーション研究家の津堅信之さんは「『アトム』以来半世紀以上を経た現在まで、安い制作費の原因を手塚治虫に押しつけるのは、話を飛躍させすぎている」という――。

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erhui1979

※本稿は、津堅信之『日本アニメ史』(中公新書)の一部を再編集したものです。

異例の1話30分放送に込められた手塚治虫の意図

『鉄腕アトム』で画期的だったのは、「毎週1回・1話30分・連続放送」という形式である。

毎週決まった曜日に30分枠で放送されるテレビアニメは、当時世界的にほとんど例がなかった。欧米のテレビアニメは1話5~10分程度と短く、その多くがショートギャグである。1話10分では、複雑なストーリーやキャラクターの心理描写は困難だが、子ども向けのシンプルな娯楽が定番だった欧米では、そもそもそんな野心はなかった。1話30分は、キャラクターの喜怒哀楽など心理描写を盛り込みたかった手塚治虫の意図が込められたものだった。

日本では1話30分が主流になり、その1話が次回へ続いて、半年以上をかけて壮大なドラマが描かれるテレビアニメも出現した。現在でも、毎週数十タイトルものテレビアニメが同じ形式で放送されていることを考えると、『アトム』がその後の日本アニメを決めてしまったともいえるわけである。

その『アトム』放送に至る虫プロの試行錯誤は、次のようなものだった。

1話の制作に必要なアニメーターは660人以上

まず、そもそもテレビアニメとして何を作るかである。誰もが考えたのは、設立者たる手塚の漫画を原作にした作品だった。いくつかの候補は挙がったが、当時から手塚の代表作で、人間の心をもったロボットのアトムを通じて科学技術の危うさや矛盾を描いた『アトム』に落ち着いたのは自然な流れだった。

次に、毎週1話30分で放送するとして、それをどう作るかである。

設立時の虫プロは東映動画出身者が中心で、フルアニメ(*)派が大半だった。山本暎一はおとぎプロでリミテッドアニメを身につけていたが、ともかくフルアニメで、アニメーター1人あたりの平均的な作業量(動画の枚数)を加味して毎週30分のフィルムを作るとなると、実に660人以上のアニメーターが必要だとわかった。ベテランと新人合わせて十数名のアニメーターしかいなかった虫プロでは、どう考えても無理である。

(*)セルアニメなど描画系アニメーションの作画法には、フルアニメーションとリミテッドアニメーションがある。フルアニメは、キャラクターの全身を豊かに動かして表現する作画法、一方のリミテッドアニメは、たとえば口だけパクパク、眼のまばたきのように、身体の一部分だけ動かして表現する作画法。

打開策は動いていない絵の「見せ方」を工夫すること

そこでフルアニメを捨ててリミテッドアニメを採用すること、また30分(CMなどを除けば実質約25分)のアニメを制作するために何人が必要かではなく、現有のアニメーター陣が1週間で描ける枚数で、どうやって「動いているように見せるか」を考えた。

その結果、1話あたりの動画枚数は1500~1800枚と決まった。これは当時の常識からして10分の1以下の枚数である。そのかわり、動いていない絵のカメラワークを工夫する、単純な歩きや飛行など繰り返し使える動画をストックして何度も兼用する(これを「バンクシステム」と呼んだ)、1カットあたりの時間(秒数)を短くしてスピーディーな展開にするなど、さまざまな「見せ方」が考案された。

そして最後に制作費である。『アトム』1話の制作費として虫プロが受け取ったのは55万円だった。実際には250万円はかかっており、放送局はもっと出せたというが、手塚がそういう超廉価に決めたのである。普通なら値上げ交渉をするのが手塚の役割のはずだが、手塚は値上げどころか「値下げ」したことになる。


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