新型コロナウイルス禍によるストレスなどを背景に、痛みと発疹を伴う「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」の患者増加が懸念されている。従来は加齢などで発症が増える傾向にあったが、近年は若年層でも目立ち、コロナ禍で拍車がかかっている恐れがある。人によっては痛みが長期間続くこともあり、医師らは早期治療とワクチン接種の重要性を呼び掛けている。
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帯状疱疹を発症すると、ピリピリ、チクチクとした痛みに付随し、水ぶくれを伴う発疹が現れる。症状は胸から腹部、背中にかけて出ることが多く、顔や耳の近くに出ると顔面神経まひや難聴などを引き起こすこともある。
治療は抗ウイルス薬の投与が中心で、発疹が出てから3日以内が望ましいとされる。通常2週間ほどで皮膚症状は治まることが多いが、痛みが長期間持続する「帯状疱疹後神経痛(PHN)」に移行するケースも少なくない。
痛みの度合いは個人差があるものの、「焼かれるような」「風が当たるだけでもつらい」などとも表現され、つらい状態が半年以上続く人もいる。
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「中野皮膚科クリニック」(東京都中野区)の松尾光馬(こおま)院長によると、帯状疱疹は水ぼうそう(水痘)の経験がある人なら、罹患(りかん)リスクがある。原因となる水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスは水ぼうそうが治った後も脊髄の神経節に潜伏。普段は免疫で活動を押さえ込んでいるが、再活性化を許すと帯状疱疹を発症する。
ウイルス再活性化の大きな要因とされるのが加齢による免疫力の低下で、50代から発症率が上昇し、80歳までに3人に1人が発症するといわれる。高齢化が進む国内は患者増が見込まれているが、松尾氏は「近年は20~40代で発症する人も珍しくない」と話す。
背景の一つとして考えられるのが、水ぼうそうをめぐる環境の変化だ。従来、水ぼうそうにかかった子供と接することで、大人も免疫を活性化できる「ブースター効果」を得てきた。
だが、平成26年に水痘ワクチンが乳幼児の定期接種となったことで子供の水ぼうそうが減少。「結果としてブースター効果を得る機会も減り、帯状疱疹を発症する子育て世代が多くなっていると考えられる」(松尾氏)。
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一方、コロナ禍での患者増加の報告も相次いでいる。近畿大医学部の大塚篤司主任教授(皮膚科)は昨年、同大病院の外来で診療した帯状疱疹患者が「例年の1・5~2倍ほど多かった印象だ」と明かす。
大塚氏によると、コロナ禍前はがんや免疫疾患の患者が重症化するケースが多かったが、昨年はこうした疾患を持たなくても重症化に至る傾向が見られた。高齢者だけでなく、20代の受診もあり「例年とは明らかに様子が違った」という。
帯状疱疹はストレスによる免疫力低下で引き起こされることもあり、大塚氏は「コロナ禍で多くの人が行動制限やステイホームを強いられるなどし、ストレスを抱え込んだことが患者増加につながった可能性がある」と指摘する。
予防で重要になるワクチンは50歳以上を対象に任意接種となっている。従来の水痘ワクチンと同じ生ワクチン(1回接種)と不活化ワクチン(2回接種)の2種類がある。不活化のほうが発症予防効果が高いとされるが、費用は1回2万円程度と生(8000円程度)よりやや高い。大塚氏は「接種費用は自治体が補助してくれるケースもある。つらい症状に悩まされないためにも接種を検討してもらいたい」と話している。(三宅陽子)