なぜ日本企業は世界市場での存在感を失ったのか。経営コンサルタントの太田信之さんは「いまでも日本企業が高い市場シェアをもつ分野はある。しかし、その多くは成熟・衰退市場で、成長市場では存在感が薄い。そのことが日本企業のネガティブなイメージの源泉になっている」という――。
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かつて世界のGDPの15%超を占めていた日本
20年前に海外出張すれば、ほとんどの国で空港からクライアントのオフィスやホテルに向かうタクシーから見える景色には、SONY、Canonなどの日本企業の広告がずらりと並んでいた。いつの間にかそうした景色は消え、今やSamsung、LGなどの韓国勢に取って代わられて久しい。
「米国と日本で、平成元年には世界のGDPの43%を押さえていたんだよ。日本単独でも15%を超えていた」などと、バブル時代の話をしても、20代、30代はおろか、40代の社員にさえ、そんな時代の記憶はない。
存在感を示す大国の中で
現在の日本のGDPは世界第3位というもののわずか5.7%で、すでに世界第2位になっている中国は16.1%と、往時の日本を超えている。
米国も衰退したとはいうが、それでも産業を新しく創り出すという点での存在感はまだまだ大きい。
欧州は再生エネルギーへのシフトやデータプライバシーなど、欧州独特の投資と規制を中心として、EUという枠組みをフル活用して世界中の企業に大きな影響力を持つ存在となった。特にドイツのインダストリー4.0は、国と産業が一体となった欧州らしい製造業のDXをリードし、北欧はグリーンテックで存在感を示している。
中国・インドは、かつて想定していたとおりに成長している。かくして世界の勢力図はすでに大きく変わった。コロナ禍の状況やロシアのウクライナ侵攻など、先行きの不透明さも相まって、私たちは大国の興亡の真っただ中にいる。
その中で、日本はまだ大国なのだろうか? 日本企業はどうだろうか? 私たちは、なぜいま世界で日本企業の姿を目にしなくなったのだろうか?
本稿では、日本企業のこれからの再浮上に必要な方向性を最後に提示する。その前に、日本企業の存在感が薄れてしまった事実、その理由の深掘りをしてみたい。
成長産業でまったく存在感がない
市場規模の増減率と、その中に占める日本企業のシェアを比較してみると、興味深い事実が浮かび上がってくる。それは「日本企業は成長市場で存在感が薄く、成熟・衰退市場では存在感がある」ということだ。
各市場の世界シェアについては、日本経済新聞社が70品目に及ぶ商品・サービスについて調査した「主要商品・サービスシェア調査」がある。
試しに、それらの70品目において、市場規模の増減率が年間+15%以上の市場を「急速成長市場」、+15%~±0%を「成長市場」、±0%~-15%を「成熟市場」、-15%以下を「衰退市場」とおいて、主要市場で日本企業の存在感を調べてみた。すると、日本企業の現状を表す残念な事実が見えてきた。
まず、成長産業の中でも、その伸びが顕著なのは再生エネルギーだ。
2021年の風力発電機市場は、前年比で市場が47.4%伸びている。これはずばぬけて高い。エネルギーは生活基盤であり、万人が必要とする大市場だ。
その大市場におけるシェアトップ5は、順にベスタス(デンマーク)、GEリニューアブルエナジー(アメリカ)、ゴールドウィンド(中国)、エンビジョン(中国)、そしてシーメンスの流れをくむシーメンスガメサ・リニューアブル・エナジー(スペイン)の5社となり、この5社で市場の68.1%を占める。
この成長市場に、日本企業は影も形もない。同じく急速成長市場として、前年比で34.4%成長している太陽光パネルでも同様だ。この市場では1位から4位を中国企業が独占し、辛うじてカナダ企業が5位に入っている。
こうした例を眺めつつ全体を俯瞰(ふかん)してみると、実は世界の主要品目でトップシェアに残っている日本企業の大半が、衰退市場か成熟市場にいることが分かる。
デジタルカメラ市場のトップ5は日本企業
日本経済新聞社が選択した70品目の選び方には議論があるところではある。化学・素材・電子部品等で、「この企業の部材がないと、完成品が作れない」といわれるほどの高シェアを誇る日本企業があることは十分承知している。
しかし、実際にそれが製品の価値に決定的な影響をもつ付加価値部材なのか、その企業が成長率、利益率、将来への投資など含めてどうなのかというと、残念ながら規模は大きいかもしれないが、成長性や利益の点で心もとない気がする。
実際に市場の種類ごとに数を拾い上げてみるとより全体がよく分かる。前年比+15%以上の「急速成長」市場では、13市場のトップ3(つまり39席のポジション)に入っている日本企業はわずか3社だ。
逆に年間売上が-15%以上も縮小している「衰退市場」は7つあるのだが、そのトップ3(全21席)のうちの9社が日本企業となっている。
その中でもデジタルカメラは特筆に値する。デジタルカメラの市場成長率は、前年対比で-40.3%だ。
笑えないことだが、この衰退市場ではトップ3どころかトップ5のすべてが日本企業(キヤノン、ソニー、ニコン、富士フイルムホールディングス、パナソニック)となっている。このうちのトップ3だけで市場占有率は83.7%、トップ5では93.8%となっており、沈みゆくタイタニックでダンスを続けているように見える……。
デジタルカメラの市場が奪われた先はスマートフォンだと容易に想像でき、そしてそこはすでに成熟市場で、かつ日本企業の姿が見当たらない。つまり、日本企業はデジタルカメラで一世を風靡(ふうび)して市場創造を行いながら、ガラケーで写メを展開したところまではよかった。だが、その後のスマートフォン市場には完全に乗り遅れたということだ。
こうした数字の意味することはなんだろうか?
それは日本企業の多くで、主要事業がすでに成熟から衰退産業になっているにもかかわらず、その手前で新規成長事業への投資決定ができなかったか、投資を決定したとしても、既存の主力事業への過度な配慮が行われ、新規事業には十分な資源配分が行われてきてこなかったことがうかがい知れる。