空母や潜水艦などで使用されている核推進システムが、宇宙でも本格的に活用されつつある。米国では火星へのヒト探査を最終的な目標に掲げる「アルテミス計画」が進行しているが、その人員・物資を輸送する宇宙船に核熱推進装置を搭載するための開発が進められている。すでに米議会の予算も下り、設計段階に入っている。
ロシアでは、いったん金星に向かい、その重力アシストを受け、木星まで宇宙機を送ろうとしているが、その電気推進装置の源としてもやはり核エネルギーを採用、すでにモックアップが完成している。
宇宙開発が急速に進むいま、宇宙機は“核の時代”に突入しようとしているのだ。
米国が開発中の核熱推進「NTP」を搭載した宇宙船
米国防省内の一機関であるDARPA(国防高等研究計画局)は、核熱推進システム(Nuclear Thermal Propulsion)を開発するためのDRACO計画(Demonstration Rocket for Agile Cislunar Operations)を進めている。
この計画では、主に月への輸送手段を目的に、原子炉推進システムを搭載した宇宙機を開発。2025年に地球低軌道上での実証を行うことを目指している。
原子炉(ロケット・エンジン・リアクター)の開発は、ジェネラル・アトミックス社が担当。その推進装置の部品製造やシステム全体の統合において、米国の軍需企業大手であるシエラ・ネヴァダ社の宇宙開発を担う子会社シエラ・スペースが協力する。
宇宙船の設計には、ジェフ・ベゾス率いるブルーオリジン社と、ロッキード・マーティン社が選定されており、現在、両社が宇宙機のコンセプト・ワークを進めている。
これと並行して、NASA(米航空宇宙局)とDOE(米エネルギー省)も類似のプロジェクトを進めている。その宇宙船は「MTVs」(Mars Transfer Vehicles)と呼ばれ、火星への有人探査にすることを目的に開発が進められている。
NASAはアルテミス計画によって、2040年までに有人火星探査を実現しようとしている。核熱推進装置が実現すれば、現在使用されている化学燃料による推進装置や電気推進システムよりも、移送する人員物資の質量を増やすことができ、また、短時間でそれら天体間を往復することが可能になる。有害な宇宙線が降り注ぐ宇宙空間の航行時間を短縮することは、クルーの身体を保全することにもなる。
NASAは2021年7月に、その原子炉の開発業者として3社と契約。現在、基礎設計が進められていて、うち1社が今年8月以降(未定)に最終選定される予定だ。
ロシアは「ゼウス」を計画、2030年打上を目指す
核熱推進システムの開発は、ロシアでも進められている。
2021年10月、ドバイで開催された国際宇宙会議において、ロシアは核動力装置を搭載した宇宙タグボート「ゼウス」の概要をはじめて公開した。
この機体では、原子炉で発生したエネルギーを、電気推進システムに活用する。日本の「はやぶさ」「はやぶさ2」にイオンエンジンが搭載されたように、それら既存の電気推進システムは、主に小型の探査機などに使用されてきた。電気推進は、液体燃料を使用した化学推進よりも効率は良いが、推力が非常に低いのがその理由だ。