他人由来の人工多能性幹細胞(iPS細胞)から血小板を作り、血液の病気の患者に血液製剤として輸血し移植する世界初の治験について、再生医療ベンチャー「メガカリオン」(京都市)は2日、1人目の移植を実施したと発表した。拒絶反応など、有害な現象は起きず成功したという。
対象となったのは、血液の成分で止血作用を担う血小板が減少し、出血が止まりにくくなるなどした血小板減少症の患者。同社は京都大のiPS細胞研究財団が作って備蓄しているiPS細胞から血小板を作り、今年4月に輸血して1カ月間、経過を観察した。その結果、有害な現象や副作用はなく、血小板の増加も確認できたとしている。
赤松健一社長は2日、京都市内で記者会見し、「安全に実施することができ、非常にほっとしている。実用化への重要な第一歩だ。令和7年ごろの実用化を目指したい」などと語った。
同社と連携している京大の江藤浩之教授らの研究チームは令和元年、血小板輸血不応症を起こした再生不良性貧血患者自身の血液からiPS細胞を作り、大量の血小板に変化させ輸血で患者に戻す「自家移植」の臨床研究を実施している。
自家移植は、患者自身に由来する血小板であるため拒絶反応がなく、血小板には核がないため、がん化の懸念もない。しかしオーダーメードのような方法で、iPS細胞の作製や血小板への変化に時間がかかり、手間も費用もかさむ。今回の治験では、他人由来の既製品である備蓄iPS細胞から血小板を作り輸血する「他家移植」を行った。
血小板は常温で4日程度しか保存できず、冷凍すると機能を失うことから、大量に作り置きすることが不可能だった。だが京大などが、iPS細胞が血小板に変化する直前の巨核球(きょかくきゅう)という段階で冷凍保存し、必要に応じて解凍して使う血小板の大量生産技術を開発。メガカリオンは、この技術を用いて備蓄iPS細胞から作った巨核球を冷凍保存しておき、患者が決まってから血小板に変化させることで、時間や手間、費用を軽減する道を開いた。
今後の課題は、巨核球1個から増殖する血小板の数を増やすこと。人の体内では、巨核球1個から1000個以上の血小板が作られているが、iPS細胞由来の場合は、30個程度にとどまっている。この数の向上が、コストダウン実現の大きな鍵になるという。
治験の計画は、昨年4月に医薬品医療機器総合機構(PMDA)から承認を受けた。来年末までに計10人に移植手術を行い、安全性と有効性を確認する予定となっている。