顔認証普及の裏で進むディープフェイク対策 AI、多要素認証…

    自治体や金融機関で幅広く使われている、オンライン上の顔認証システム「eKYC」の普及が進む中、不正に顔認証を突破されるリスクへの対策が急務になっている。人工知能(AI)を使って偽動画を作る「ディープフェイク」で、本人になりすまされる恐れもあるといい、eKYCに他の認証方法を組み合わせたり、AIを使って偽動画を見破ったりする仕組みの構築が進んでいる。

    eKYCはスマートフォンを使って運転免許証などの顔写真付きの本人確認書類と一緒に、顔の動画や写真を撮影する仕組み。一致すれば同一人物として認証される。非対面ですぐに本人確認できることから、国内では平成31年4月に電子決済サービス「メルペイ」が導入、金融機関ではオンライン上の口座開設の際に使われるなどさまざまなサービスへと広がっている。矢野経済研究所によると、令和2年度のeKYCの国内市場規模は前年度比2・7倍の40億8300万円と急速に拡大している。

    一方で、eKYCの悪用の恐れも指摘されている。日立製作所の研究グループは3年6月、ディープフェイクの技術を使って作成した偽動画でeKYCが突破される危険性があるとの論文を人工知能学会で発表した。ディープフェイク技術とその検知に詳しい国立情報学研究所の越前功教授(情報セキュリティー)も「ソフトの進歩で1枚の写真から比較的簡単に偽動画が作れるようになっていて、認証が突破される危険性はある」と指摘する。

    NECは9つのランダムな動作を要求

    そこで、eKYCのサービスを提供する企業もセキュリティーの強化に力を入れている。元年5月からeKYCを提供し、NTTドコモの「d払い」などの認証にも導入実績のあるNECは、認証する際、9種類の変則的な動作を要求することで、偽動画でのなりすましを防いでいる。また、年内には同社が約40年にわたって積み上げた顔認識技術の知見とAIを併用してなりすましを検知する独自開発のシステムをサービスに組み込む予定という。

    NEC金融システム統括部ディレクターの青柳亨氏は「顔認証だけでなく、多様な要素で認証することでセキュリティーを高めることが重要」と話す。例えば、顔認証に加えて、マイナンバーカードの暗証番号なども要求することなどで、認証突破被害の防止につながると指摘している。

    一方、国立情報学研究所の越前教授らのグループは偽の顔映像を自動判定するシステムを発表している。ディープフェイクで作成された映像の不自然さをAIが検出するプログラムで、複数の企業から問い合わせが来ているといい、「偽動画を作るAIと検知するAIのせめぎあいが起きている。eKYCの利便性を生かすには用途に応じて安全性を確立する必要がある」と話している。(桑島浩任)


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