アジア安全保障会議での岸田首相基調講演全文 「外交・安保面での役割強化」

    日本の責任と取組

    世界第三位の経済大国であり、そして、この地域で戦後一貫して平和と繁栄を追求し、経済面を中心に貢献してきた、日本。その日本が果たすべき責任は大きい。

    そうした認識の下、歴史の岐路に直面するわれわれの平和を実現するために、日本が果たすべき役割とは何か。

    誰もが尊重し、守るべき普遍的価値を重視しながら、「核兵器のない世界」を目指す、といった未来への理想の旗をしっかりと掲げつつ、しかし、時にはしたたかに、果断に対応する。私はこうした徹底的な現実主義を貫く「新時代リアリズム外交」を掲げています。

    その中でも、日本は、謙虚さ、多様性を重視する柔軟性、相手方の主体性を尊重する寛容さ、を失うことはありません。しかし、日本、アジア、世界に迫り来る挑戦・危機には、これまで以上に積極的に取り組みます。

    そのような観点から、私は、この地域の平和秩序を維持、強化していくた

    め、次の5本柱からなる「平和のための岸田ビジョン(Kishida Vision for Peace)」を進め、日本の外交・安全保障面での役割を強化してまいります。

    第1が、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化です。特に、「自由で開かれたインド太平洋」の新たな展開を進めます。

    第2が、安全保障の強化です。日本の防衛力の抜本的強化、および、日米同盟、有志国との安全保障協力の強化を車の両輪として進めます。

    第3が、「核兵器のない世界」に向けた現実的な取組の推進です。

    第4が、国連安保理改革を始めとした国連の機能強化です。

    第5が、経済安全保障など新しい分野での国際的な連携の強化です。

    ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化とFOIP(自由で開かれたインド太平洋)の新たな展開

    (1)ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化

    国際社会を平和に導くために、われわれは、第1に、「ルールに基づく自由で開かれた国際秩序」の維持・強化を進めていく必要があります。

    そのような秩序を支える基盤が、「法の支配」です。また、「紛争の平和的解決」であり、「武力の不行使」であり、「主権の尊重」です。

    さらに、海に目を転じれば「航行の自由」であり、経済に目を転じれば「自由貿易」です。

    当然、「人権の尊重」も重要であり、人々の自由意志と多様性が反映される

    民主的な政治体制も重要です。

    これらは、世界の全ての人々が、国際社会の平和を希求し、英知を結集して紡ぎ出した、共通で普遍的なものなのです。今申し上げたルールや原則が、国連憲章の目的と原則にも合致していることは、言うまでもありません。

    ルールは守られなければなりません。自らに都合が悪くなったとしても、あたかもそれがないかのように振る舞うことは許されません。一方的に変更することも許されません。変更したいのであれば新たな合意が必要です。

    (2)「自由で開かれたインド太平洋」の新たな展開

    わが国は、この地域におけるルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向け、「自由で開かれたインド太平洋」を進めてきました。そして、このわが国が提唱したビジョンは、国際社会において幅広い支持を得るようになりました。

    わが国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)が自ら基本方針として示した「インド太平洋に関するASEANアウトルック」を一貫して強く支持しています。

    世界を見渡せば、米国、豪州、インド、英国、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、そしてEUといったさまざまなアクターが、インド太平洋へのビジョンを打ち出しています。 志を同じくする国々が、大きなビジョンを共有した上で、誰かの押しつけではなく、自らの意思で、それぞれの取組を進める。それこそが、包摂性、インクルーシブネスを基本とする、自由で開かれたインド太平洋、FOIPの考え方なのです。

    特に、ここインド太平洋においては、ASEANとの協働が不可欠です。

    私も、総理大臣就任後、最初に、本年のASEAN議長国を務めるカンボジアを、その後、インドネシア、ベトナム、タイを訪問し、本日は、シンガポールにやってまいりました。ASEAN各国首脳との会談も積み重ねてきました。

    わが国と東南アジアの歴史は、長きにわたる善意と友好に支えられています。戦後、わが国は東南アジアの発展を支援し、そして、東南アジアも、わが国が未曾有の震災に見舞われたときに、その復興に手を差し伸べてくれました。

    今後もASEAN各国首脳との間で、手を携えて、この地域の平和と繁栄を確保していくための方策について議論を深めていきたいと思っています。

    また、ASEAN諸国と並んで太平洋の島国の皆さんもFOIPの実現のための大切なパートナーです。彼らの存立にかかわる気候変動問題への対応をはじめとして持続可能で強靱な経済発展の基盤強化に貢献をいたします。日米豪が連携した海底ケーブル敷設など、近年の安全保障環境の変化に応じたタイムリーな支援を実施してきています。法の支配に基づく持続可能な海洋秩序の確保に向け、太平洋島嶼国の皆さんとともに歩んでいきます。 FOIPに基づく協力。それは、永年にわたる信頼に立脚した協力です。インフラ建設といったハード面にとどまらず、現地の人材を育て、自律的かつ包摂的発展を促す支援や、投資のパートナーとして官民挙げた産業育成などが中心でした。ASEANの連結性強化の取組も支援してきました。

    有志国が連携してこの地域にリソースの投入を増やしていく必要があります。先程述べたASEAN、太平洋島嶼国といった仲間に加えて、FOIPの推進に重要な役割を果たす日米豪印、クアッド。先般のクアッド東京サミットでは、インド太平洋地域の生産性と繁栄の促進のために不可欠なインフラ協力について、今後5年間で500億ドル以上の更なる支援・投資の実施を目指すことを確認しました。

    私は、こうした取組をさらに加速してまいります。ODA(政府開発援助)を通じた国際協力を適正、そして効率的かつ戦略的に活用しつつ、ODAを拡充するなど、外交的取組を強化し、従来のFOIP協力を拡充いたします。巡視艇供与や海上法執行能力強化、サイバー・セキュリティー、デジタル、グリーン、経済安全保障といった分野にも重点をおきつつ、FOIPというビジョンをさらに推進していくためのわが国の取組を強化する「平和のための『自由で開かれたインド太平洋』プラン」を来年春までに、お示しすることを表明します。

    中でも、近年、日本は、衛星、人工知能、無人航空機等の先端技術も活用しながら、海洋安保の取組を強化しており、各国との知見・経験を共有していきます。この観点から、今後3年間で、20カ国以上に対し海上法執行能力強化に貢献する技術協力および研修等を通じ、800人以上の海上安保分野の人材育成・人材ネットワークの強化の取組を推進していきます。

    さらに、インド太平洋諸国に対し、今後3年間で少なくとも約20億ドルの巡視船を含む海上安保設備の供与や海上輸送インフラの支援を行うことをここに表明をいたします。クアッドや国際機関等の枠組みも活用しながら、各国への支援を強化していきます。

    加えて、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・強化するため、国と国・人と人とのつながりやネットワーク作りを強化していきます。そのため、今後3年間で法の支配やガバナンス分野における1500人以上の人材育成を行ってまいります。


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